シリア「アサド政権」崩壊がもたらすロシアの深刻事態…専門家は「海軍、空軍、核戦略の拠点を失う可能性」を指摘

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ロシア空軍と陸軍の惨状

 その上で軍事ジャーナリストは「アサド政権の崩壊は、何よりもロシア軍がウクライナ戦争で疲弊したことが最も大きな要因だったと考えます」と言う。

「シリアの反政府軍も、それを駆逐しようとするイラン軍もヒズボラも、いずれも満足な空軍戦力を持ちません。政府側も反政府側も陸上戦力で攻撃を仕掛けるより他に方法はなかったのです。一方のロシア軍はアメリカ軍に次ぐ、世界第2位の空軍大国です。シリア政府軍の兵力が不足し、士気が低下していたとしても、以前ならロシア空軍は反政府軍を空爆し、大きな戦果を得ていました。そのため政府軍は戦術・作戦レベルで圧倒的な優位を確保できていたのです。しかし2022年、ロシアはウクライナに対して軍事侵攻を行いました。それから24年まで両軍とも一進一退の激戦が続き、ロシア空軍のダメージも相当なレベルに達しているのです」

 間隙を突いて反政府軍が大規模な奇襲をしかけた時、ロシア空軍に反撃する余裕は失われていた。陸上戦力もウクライナとの戦争で手一杯だ。つまりロシアがウクライナを侵略しなければ、長年の同盟国であるシリアを失うことはなかったのだ。

2つの軍事基地

「ロシアは18世紀から南下政策を進めました。ロシアは全土が高緯度に位置するため、秋になると港は凍結します。軍事面でも貿易面でも凍らない“不凍港”と、黒海から地中海に抜ける海路の確保はロシアの悲願でした。19世紀にロシアはイラン=ロシア戦争でイランやアフガニスタンに進出を果たし、クリミア戦争でトルコを攻撃。戦争が行われた場所を現代の地図で見れば、今のウクライナやシリアと重なり合います。そして第二次世界大戦後の冷戦時代、シリアが反米・反イスラエル政策を採ったことから、当時のソ連はシリアと密接な関係を結ぶことに成功しました。こうしてロシアは黒海から地中海に抜ける“橋頭堡”としてシリアをフル活用するのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシアは旧ソ連の1970年代、シリアのタルトゥースに海軍基地を置き、地中海で唯一の補給・修理拠点として機能させた。さらに2010年代にはフメイミム空軍基地も建設。どちらの基地もロシアが中東各国やアメリカに睨みを利かせ、黒海から地中海を抜けてアフリカ各国などと貿易を行う「シーレーン(海上交通路)」の確保に大きく寄与してきた。

根底から揺らぐ安全保障政策

「タルトゥースの海軍基地を例に取れば、シリア政権は何と50年スパンという長期間の基地使用許可を与えています。さらに核兵器の持ち込みも公式に認めており、ロシアにとって核戦略の重要拠点でもあるのです。ところがウクライナ戦争が始まると、黒海艦隊の状況に変化が生じました。ウクライナの水中ドローンや対艦ミサイル攻撃で艦隊は大きな損害を受け、クリミア半島の拠点だったセヴァストポリ海軍基地から撤退。ロシアの沿岸部に避難して動けなくなりました。そして黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡をロシア海軍が通行することは、トルコがウクライナの侵略を理由に拒否しています。地中海側のロシア海軍はタルトゥースを拠点に活動してきましたが、もしシリアの反政府勢力が基地の閉鎖を決定すれば、ロシア海軍は黒海に続き地中海でも重要な拠点を失うわけです。これが大変な事態であることは言うまでもありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 シリアの反政府勢力は、“反アサド”だけでイスラム原理主義とは無縁のグループから、アルカイダの影響を受けたグループ、イスラム国の残党など、多種多様なメンバーの寄せ集めと見られている。反政府勢力がシリアで権力基盤を確立した後、外交でロシアに対しどのような態度に出るかは不明だ。もし新しいシリア政府がロシアの基地閉鎖を決定すれば、ロシアの安全保障政策が根底から揺らぐことになる。

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