反プーチン運動で獄死した「ナワリヌイ氏」が“政権ズブズブ企業”を追い詰めた意外な方法
質問が出たことに司会者は当惑の表情
若い司会者の表情は、まるで会場に空飛ぶ円盤が着陸して、中から緑色の皮膚をした小さな宇宙人に遭遇したかのようだった。今までこの仕事をしていて、何か言いたいことがあるという人間に出会ったのは初めてなのは明らかだった。「わかりました」と司会者はやっとのことで言った。「前へどうぞ」
私は壇上に上がって言った。「グンバーという石油取引企業がありますが、この企業の所有者はゲンナジー・ティムチェンコというプーチンの友人です。あなた方は、どの程度の石油をどのような条件でグンバーに回しているのですか? 説明を要求します。なぜなら現時点では、あらゆる情報が、貴社の利益は単にグンバーに蓄積されており、そのために株主が本来受け取るべき配当金を受け取れていないことを示しているからです」
壇上に座っている人々の表情から察するに、小さな緑色の宇宙人は着陸しただけでなく、タップダンスをしながら光線銃を発砲しているらしい。彼らの目からは、私がいったいどこから来たのか疑問に思っていることがありありと伝わってきた。クレムリンから送り込まれたのか? それともFBIか? この人物はいったいなぜ公衆の面前で自分たちを糾弾しているのだろうか?
聴衆から喝采を浴びたナワリヌイ氏
私は準備しておいたスピーチを、法律用語を使いながら丁重に話していた。グンバーについて質問した後は、スルグトネフチェガスの本当の所有者は誰なのかを明らかにするように要求した。2003年の当時、この会社の報告書には表向きは一般的な株主しか掲載されていなかった。
会社の所有者についての情報は実に巧みに管理されており、この巨大石油会社を実際に誰が所有しているのかは、地球上の誰も推測できないようになっていた。
私が話している間、会場は静まりかえっていたが、しばらくすると、聴衆がざわつき始めたのが感じられた。まず、仕事としてこの退屈極まりない総会に出席していた記者たちが、生まれて初めて予想外のことが起こっているのを目撃していた。次に株主たちが息を吹き返し始めた。
最初は私の存在に困惑し、いったい何者なのかを探ろうとしていたが、自分たちと変わらないふつうの人間で、違うのは壇上に上がる勇気を持っていることだけだと気づいたのだ。
話し終えた私は聴衆の喝采を浴びた。それはとても貴重な瞬間であり、自分は今、汚職と闘っているのだと実感できた、しびれるような勝利の瞬間だった。
以来、私はあらゆる株主総会に出席するようになった。株主総会の前の報道陣の主な関心事は、ナワリヌイは出席するかどうかになった。誰もがダビデとゴリアテの対決を見たがっていた。私が意を決して話し始めると、経営陣は苦々しい表情を見せた。私を止める手立てがなかったからだ。もちろん、企業が私の質問に答えることは一切なかった。
「アレクセイ、あなたの言うとおりです。私たちはプーチンと同じような盗っ人です」などと言えるはずもなく、「貴重なご指摘をありがとうございます。検討します」というような答えが返ってきた。会場の人々も、企業が意義ある回答をするなどとは期待していなかった。重要なのは、誰かが質問をしたという事実だ。
***
この記事の前編では、『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』(講談社)より、ナワリヌイ氏の選挙事務所を襲撃した「謎のセクシーコスプレ美女集団」の正体と、トランプ陣営とロシアとを結ぶ“汚職事件”について取り上げている。