反プーチン運動で獄死した「ナワリヌイ氏」が“政権ズブズブ企業”を追い詰めた意外な方法
ロシアにも存在する「株主の権利」
当時の新聞にも、国営企業の横領に関する記事が掲載されていた。私は株主なので、こうした記事の内容から直接影響を受けるというわけだ。私はガスプロムに宛てて次のような手紙を書いた。「私は某新聞に掲載された記事を読み、御社で何が起こっているのかを疑問に思っております。恐れ入りますが、株主として説明を聞かせていただくことはできますか?」
たとえ私の持ち株がほんのわずかでも、企業には報告義務がある。回答が送られてくると注意深く読み、企業の行動が株主の利益に反している場合は裁判所に訴えた。訴訟の当事者になれば、会議の資料や覚書の開示も要求できる。その資料はブログで正式に使うことができるのだ。
私と国営企業の闘いは、最終的に何万人ものフォロワーが見守ることになった。だが、必要だったのは、フォロワーではなく協力者だった。私は大企業に苦情を送って一緒に訴えようと購読者に呼びかけた。たとえば、『ヴェドモスチ』紙には、オリガルヒであるヴィクトル・ヴェクセリベルクがモスクワの中心街に所有する建物を、政府が実質的価値の数倍の価格で購入したという記事が掲載されていた。これは明らかに不正な取引だ。
私は苦情申し立てのひな形を作り、数千人の仲間を募り、苦情を取調委員会とメドベージェフ大統領に送った。当時メドベージェフは汚職との闘いに熱意があるふりをしていたのだ。私はこの方法を何度も使った。1人なら無視できても、数千人になると無視を決め込むのは難しい。資料がすべてインターネットで公開されているとあってはなおさらだ。
旧ソ連共産党の集会のような株主総会
株主総会にも出席することにした。ふつう、総会は劇場のような場所で行われる。壇上には経営陣がおり、警備員があちこちに配備されていて、報道関係者も詰めかけている。この状況では聴衆は発言しにくい。そこで私が立ち上がって声を上げる。「質問があります」
総会に出席し始めたころ、印象的な出来事があった。2008年、私はスルグトネフチェガスというロシアの大手石油・ガス採掘企業の総会に出席していた。この企業の所在地はモスクワから3000キロほど離れたスルグトというシベリアの都市である。
経営陣は自分たちが都市の所有者であるかのように考えており、傍若無人に振る舞っていた。たとえば地元の空港で、自分たちが気に入らない乗客が乗っている飛行機に離陸許可を出さないというようなことをしていたのだ。
さて、私は株主総会に出席するためにスルグトに到着した。総会はかつて各地に建てられた文化・レクリエーション施設「ソビエト文化の家」を思わせる建物で開催された。仰々しく、いかめしい雰囲気の会場の壇上には白髪交じりの男たちが座っていた。まるで旧ソ連共産党の集会だ。
億万長者である経営幹部が立ち上がって言う。「ミハイル・レオニードヴィチ・ボグダノフ氏に特別賞を贈呈します」これまた億万長者であるCEOのボグダノフが立ち上がって賞を受け取り、石油産出量や利益などを報告する。その後、ようやく総会の司会者が立ち上がって尋ねた。「何か質問はありますか?」客席に座っている150人の株主たちは無言だ。「何かご意見がある方は?」やはり無言。私は手を上げて司会者に言った。「言いたいことがあるのですが」
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