ロシア反体制派本部に「コスプレ美女集団」が乱入… “嫌がらせ”で確信した「トランプ」との関係
毒物襲撃による失明の危機
2017年4月27日、モスクワ。私が事務所から出ようとしたところだった。ドン! なんだ、なんだ、何も見えないぞ。目が耐えられないほど痛い。「今度こそ、間違いなく酸だ。きっと死ぬまで化け物みたいな顔のまま、生きていかなければならないんだ」――まずそう思った。でも顔をぬぐった手を見ると、緑色だった。ホッ、今回もゼリヨンカ(註:緑色の染料)だ。
そうはいっても片目がまったく見えない。まず懸命に顔を洗った。あのバルナウルの事件以来、私はゼリヨンカ洗浄のエキスパートになっていた。事務所にはギ酸とメイク落としで使われるミセラーウオーター(これがゼリヨンカ落としの最強タッグ)を常備していた。
しかしどういうわけか、今回はその裏技が効かない。右目が緑になり、異様な見た目で、痛みもひどくなった。医者に往診を頼み、眼帯をつけてもらったが、今すぐ病院で診てもらうようにと言われた。しかし、その日は木曜日、動画配信の日だ。「よし、これでナワリヌイの動きを封じ込めたぞ」などとクレムリンが思ったのだとしたら、それは大きな間違いだ。
着ていた洋服はゼリヨンカまみれになった。緑の顔でトレーナーに着替えた私は、片目が腫れて開けられないまま、カメラの前に座った。
その晩、何万人もの人が私のプログラムをライブで視聴した。再生も加えると、合計200万人が視聴したことになる。視力は徐々に戻るのではないかと思っていたが、そうはならなかった。翌日、医者団から、視力の回復は見込めないだろうと言われた。あのゼリヨンカには何らかの毒物が故意に加えられており、角膜に熱傷が生じていたのだ。
クレムリンの“嫌がらせ”は次第にエスカレート
それから数日、私はカーテンを閉め切った部屋から出られなかった。私の目には自然光の刺激が強すぎたからだ。翌週の配信は、まるで海賊のように、片目に黒い眼帯をつけて行った。スタジオは照明が強いので、視力が完全に失われるかもしれないと注意された。
ロシアにない手術設備がそろったスペインで手術を受ける方法もあったが、私はロシアを離れられなかった。6年間、渡航のためにパスポートを申請しても拒否されていたのだ。
ゼリヨンカの襲撃はCCTV(中国中央電視台)が撮影しており、主犯らの顔ははっきりと認められた。事件の翌日には、クレムリンから送り込まれた工作員であることが判明した。事件を通報したが、もちろん刑事訴訟は開かれなかった。私を襲った暴漢は氏名どころか住所さえ、瞬く間にネットで晒されたが、警察は犯人が誰なのか突き止めるのはおそらく「不可能」だろうと話した。
しかしながら今回の事件で、クレムリンは自分たちがやり過ぎたことを悟った。私が思うに、何もしない警察の態度と支援者の怒りとが相まって影響を与えたのではないだろうか。今回の攻撃は、私の動きを封じられなかっただけでなく、支援の輪を広げたことに当局が気づいたのだ。
1日も経たないうちに、まるで誰かが魔法の杖を振ったかのように、長い間待ちわびていたパスポートが発行された。バルセロナで手術を受けた私は、医師団のおかげで視力を失わずにすんだ。
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この記事の後編では引き続き、『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』(講談社)より、弁護士資格と金融・信用分野の学位を持つナワリヌイ氏が、プーチン政権と蜜月関係にあるオリガルヒ(新興財閥)の不正を暴くため用いた “あるアイデア”について取り上げている。