「広告写真は人の生活や意識を変える可能性がある」 NYで突き飛ばされ命を落とした写真家「橋村奉臣さん」 独学で編み出した“一瞬の美を取り出す”撮影技法

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「心が動かされる写真でなければ」

 作品が良ければ受け入れる懐の深さがアメリカにはあると語り、熾烈(しれつ)な競争や苦労を厭わない。コカ・コーラをはじめ世界の有名企業500社以上に作品を提供、商品に命が宿っているようだと幅広く支持を集めた。

 アメリカの原点は何だろうとネイティブ・アメリカンの写真を約5年かけて撮影もした。

「相手との間に築かれた信頼関係が伝わってくる写真でした。スナップショットの良さからも、広告同様に瞬間を切り取る力、核心をつかんでいる様子が分かりました」(飯沢さん)

 アメリカにかぶれなかった。妻は日本人で1男1女を授かる。2006年の東京都写真美術館、09年の国立西洋美術館での展覧会で橋村作品に初めて触れた人も多い。後進への指導では、技術があっても、その写真を見て心が動かされるものでなければ、と唱えた。

 高評価の作風に安住せず、写真と絵画的な手法を融合する試みに関心を移す。さまざまな分野の専門家が講座を開く「エンジン01文化戦略会議」に講師として、今年1月に千葉県市原市を訪れるなど活動は旺盛だった。

スーパーからの帰り道で…

 10月22日、午後8時20分過ぎ、買い物に出かけたスーパーからの帰宅途中、ニューヨーク・マンハッタンの路上で、手にした杖を男に払われて突き飛ばされた。転倒し後頭部を強打。歩行者の通報で救急搬送されたが、脳挫傷で意識を失う。

 警察はアメリカの白人で32歳の男を傷害容疑で翌朝に逮捕、訴追。互いに面識はなかった。男は訴追内容を否認、動機は不明である。

 共同通信のワシントン支局長などを歴任した春名幹男さんは言う。

「たいていは倒れたすきに金品を盗む手口ですが、からかい半分に襲うやからも多い。犯人に白人、黒人のどちらが多いわけでもない。事件を見ても周囲の人は無視しがち。コロナウイルス拡散はアジア系のせいと信じ込み嫌がらせをする人もいて、用心にも限界があります」

 11月12日、79歳で逝去。

 成功が目標ではなく、毎日感動して生きているかが大切なんだ、と齢を重ねても語っていた。

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