「南北戦争」の悪夢再来も…大胆人事で「トランプ次期政権」の波乱が不可避な理由とは
左派からも荒唐無稽な陰謀論
大統領選後の米国政治はトランプ一色の感があるが、同氏が必ずしも地滑り的な勝利を収めたわけではないことに留意する必要がある。選挙人の獲得数ではハリス氏に大差をつけたが、有権者の一般投票ではトランプ氏の得票率は50%で、ハリス氏との差は1.6ポイントに過ぎなかった。
このことは多くの米国人がトランプ氏の独断専行に反発していることを意味する。トランプ氏が要職に指名した9人が脅迫の対象になっていることがその証左だろう。
気になるのは、大統領選挙後、右派の手法を模倣した左派が荒唐無稽な陰謀論を主張し、民主的プロセスへの疑念をあおっていることだ(11月25日付AFP)。トランプ支持者に対する暴力が今後激化するとの指摘もある(11月19日付ZeroHedge)。
権力移行の際、2021年と同様の混乱が起きるのではないかとの不安が頭をよぎる。
大量強制送還と国民へのプライバシー侵害
トランプ氏が早期実施を確約している移民の大量強制送還を巡る確執も気がかりだ。
米国内に1100万人いるとされる不法移民について、次期政権は「最初の年に100万人を国外退去させる」と豪語しているが、そのためには荒療治が不可欠だ。前述のCBSの調査で57%がトランプ氏の計画を支持しているが、反トランプ陣営は徹底抗戦の構えを見せている。
不法移民の強制送還を進める際、法執行機関の強力な監視システムが利用され、国民のプライバシーが侵害されることへの懸念が高まっている(11月18日付ロイター)。これを阻止するための闘争が起きると予測されている。
州兵動員をめぐって法廷闘争も?
トランプ氏が不法移民の強制送還のために軍を動員することも危険な賭けだ。
米移民税関捜査局の担当捜査官は6000人に過ぎず、トランプ氏はこの深刻な人手不足を、100万人を超える連邦軍と州兵(州軍)で補おうとしている。だが、マサチューセッツ州やニューメキシコ州などは州兵を動員しないと公言した。
そこで次期政権は、協力的な州の兵を派遣する案を検討している。州兵を連邦政府の任務で招集することは憲法上可能だが、マサチューセッツ州などの司法長官は、これを阻止するための法廷闘争も辞さないとしている。
法廷闘争の結果を待たずに次期政権がこの案を強行する可能性もある。そうなれば、州兵同士の衝突という「南北戦争」の悪夢が再来してしまうかもしれない。
このように、トランプ次期政権下の米国の波乱は不可避だと言わざるを得ない。悩める超大国の動向について、今後も細心の注意を払うべきだろう。
[2/2ページ]