「南北戦争」の悪夢再来も…大胆人事で「トランプ次期政権」の波乱が不可避な理由とは

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政権移行プロセスは支持率59%

 トランプ次期大統領は12月5日、駐中国大使に元上院議員デービッド・バデュー氏を起用すると発表した。これにより政権の陣容がほぼ固まった。第1次政権(2017年~2021年)で内紛が相次いだことへの反省から、主要ポストに大統領選勝利の立て役者である選挙陣営の側近をずらりと並べた。

 トランプ氏の人事は米国民の間で好評のようだ。CBSニュースなどが11月19日から22日にかけて実施した世論調査によれば、トランプ氏の政権移行プロセスを支持した米国の成人は59%、不支持は41%だった。

 だが、危うさもある。自身がトップに付く組織を敵視してきた者が任命されるケースが少なくないからだ。

 トランプ氏は11月30日、次期米連邦捜査局(FBI)長官にカシュ・パテル氏を指名した。パテル氏は、トランプ氏のロシア疑惑などの捜査にあたったFBIなどを「ディープステート(影の政府)」と批判し、陰謀論を唱えてきた人物だ。

報復人事に予防的恩赦に対抗

 トランプ陣営は左派が牛耳る現在の連邦政府のことをディープステートと非難し、「ならず者」を大量に解雇すべきだと訴えてきた。

 大規模なリストラの断行を任されているのはイーロン・マスク氏だ。マスク氏はリストラの候補をXで順次公表するとしており、320万人に上る連邦職員の間で「いつリストラの憂き目に遭うかわからない」との恐怖が既に広がっている(11月28日付CNN)。

 バイデン政権はトランプ陣営の「報復」人事に対抗するため、報復の標的となり得る議員などについて予防的恩赦の実施を検討している。12月5日付ロイターによれば、米国憲法は大統領に広範な恩赦権を認めているが、起訴されていない犯罪に対する予防的恩赦はほとんど例がない。

トランプ版「文化大革命」?

 トランプ氏は大統領選に勝利した後、選挙制度には不正投票を許す欠陥があると主張しなくなったが、同氏の主張を広める役割を果たしてきた各州や連邦レベルの共和党幹部らは2026年の中間選挙に向けて選挙制度の劇的な改革を推進すると鼻息が荒い。この動きに選挙管理当局者などから、新ルールによって共和党に有利な選挙構造を固定化しようとしていると危惧の声が上がっている(12月2日付ロイター)。

 とどまることを知らないトランプ陣営の大攻勢だが、警戒感も強まっている。トランプ氏が発表する人事に共和党議員が異口同音に賛同する様に対し、反トランプ陣営から「文化大革命時代の中国とそっくりだ。トランプ氏は当時の毛沢東的な存在になっている」との指摘が出ている(12月5日付ニューズウィーク日本版)。

 トランプ陣営はこれまで左派の活動を「米国版文化大革命」と非難してきたが、「トップに立つ者への絶対的な忠誠心」という点で自らの活動が文化大革命に酷似してきたとすれば、これほどの皮肉はないだろう。

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