厳しい判決が増えた「無理心中」裁判…昭和の法廷が“同情的”だったのはなぜか 「介護殺人」では令和のほうが“温情判決”が下される傾向に

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焦点は裁判員の共感

 2023(令和5)年5月、神戸市内で60代の息子が91歳の母親を両手で絞殺。その後、明石市内の海岸で自分の左手首や首を刃物で切って自殺を企てたが警察官に発見された。母親は認知症で、息子は真面目に介護していたという。

 だが2019年以降、息子のきょうだいが次々に他界。21年には50年連れ添った妻もがんで死去した。生活も困窮しており、息子は裁判で「早く嫁のそばに行きたいという思いに取りつかれてしまった」と明かした。

 殺人罪で起訴された後、同年11月に神戸地裁の裁判員裁判で判決公判が開かれた。裁判長は「被告人なりに周囲のことを思って決意したもので、犯行に至る経緯や動機には同情の余地が大きく、非難の程度を軽減すべき」と指摘、法定刑の下限を2年下回る懲役3年の実刑判決を下した。

「裁判員に選ばれた方々は、被告に共感できるか否かを判断しながら裁判に参加していると考えられます。昭和なら日本人は無理心中のため子供を殺した親に共感や同情を示していましたが、令和の裁判員は親による子殺しは共感できないのでしょう。一方、介護疲れによる殺人事件では、『ひょっとすると、自分たちも被告のようになってしまうのかもしれない』と切実な思いで裁判の審理を見つめているのではないでしょうか。被告に共感を示したことが温情的な判決が下る原因の一つになっていると考えられます」(同・碓井教授)

■参考記事

▼心中の母に猶予刑 「夫や親族にも責任」/東京地裁(読売新聞朝刊:1987年11月6日)

▼誘拐:父連れ出し小4死亡 誘拐容疑で逮捕 奈良のダム湖(毎日新聞大阪朝刊:2021年2月14日)

▼ダム湖遺体、父再逮捕 障害ある娘殺害疑い 奈良県警(産経新聞大阪朝刊:2021年2月23日)

▼奈良・宇陀の小4死亡:奈良・小4長女殺害 父に懲役7年 地裁判決(毎日新聞夕刊:2021年2月21日)

▼殺人未遂:母、9カ月~5歳の3姉妹を絞殺か 殺人未遂容疑逮捕 愛知・一宮(毎日新聞中部朝刊:2022年2月12日)

▼一宮の娘3人殺害、弁護側が無罪主張 「被告は心神喪失」 地裁初公判 /愛知県(朝日新聞名古屋版:2024年5月28日)

▼娘3人殺害 懲役23年 名地裁判決 母に責任能力=中部(読売新聞中部版朝刊:2024年6月12日)

▼100歳父殺害 71歳被告に刑猶予の判決 宮崎地裁「介護疲れ同情できる」(読売新聞西部夕刊:2008年12月26日)

▼孤立の果て、母よ「死んで」 困窮の69歳息子、認知症91歳を殺害(産経新聞大阪夕刊:2024年2月13日)

■相談窓口

・日本いのちの電話連盟
電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)

・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)

・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」
電話0570・064・556(対応時間は自治体により異なる)

デイリー新潮編集部

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