“牛丼一筋”“券売機は拒否”だった吉野家が「タブレット注文のカレー専門店」開店 変化が示す「日本の外食」のゆくえ
同一エリアで同じ牛丼店は2つもいらない…
近年は、スーパーの惣菜やコンビニのできたて調理品などの需要も高まり、市民の胃袋の争奪戦は、人口減もあってさらに熾烈を極めている。外食産業としては、同一エリアで同じ牛丼店2店舗は不要というのは自明である。彼らが、カレーやパスタなどの専門店を出店し、牛丼とは別の胃袋のシェアを取っていく戦略は理に適っているといえるだろう。
1986年に私が上京した頃は、吉野家は牛丼だけ、松屋には定食とカレーがあるくらいの認識だった(すき家は横浜の生麦に1店舗があったらしいが、まったく知らなかった)。そんな時代から今日のような広がりを見せた契機は、2003年、BSE(狂牛病)の発生によって豚丼などに切り替えざるをえなくなったことだろう。これにより、店舗のオペレーション改革が行われ、今ではさまざまなメニューや定食、うな丼やすき焼きまで定番メニューとなった。今の若者にしてみれば、牛丼チェーンで牛丼しか食べられないのは、考えられないことだろう。
特に、牛丼一筋だった老舗・吉野家の多様化は、日本の食の嗜好性の歴史を表しているといっても過言ではない。人口減による国内のマーケットのシュリンクに伴う“進化”と見ることができる。
平成で培われ、進化していった牛丼チェーンのノウハウは、令和でどのような発展を遂げ、胃袋争奪戦をどう勝ち抜いていくのか。そうした変化への対応力は、今後海外進出を拡大させる場合においても、現地のニーズに合わせる際に発揮されるはずだ。外食産業の雄たちが、今後どのような工夫を凝らすのか、アナリストとしても、いち消費者としても楽しみである。