「テレ朝」が「日テレ」にどうしても“勝てない”ワケ…初の個人視聴率3冠視野も「大差」をつけられる“注目の数字”とは

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背景には視聴率改革

 ところが民放局員に取材したところ、コア視聴率では「モーニングショー」が「ZIP」「めざまし8」に敗れる日が大半なのだ。観ている人は50代以上が多く、40代までの視聴者は少数派だからである。

 系列の朝日放送が制作する「ポツンと一軒家」(日曜午後7時58分)も個人視聴率では同時間帯の「イッテQ」とトップ争いをしているが、コア視聴率は最下位に沈むことも珍しくない。

「相棒23」などプライム帯のドラマも高い個人視聴率を記録しているものの、コア視聴率は高くない。これがテレ朝独特の事情である。

 2020年4月から個人視聴率がテレビ界で標準化された。世帯視聴率と違って、観ている人の性別や年齢などが分かるようになった。スポンサーはコア世代など自分たちが狙う層に向けてCMを流すようになっている。

 この視聴率改革がテレビを歪めてしまったという意見がある。正しい面もあるだろう。一方で世帯視聴率のままだったら、民放が今より衰退していたのは間違いない。

 個人視聴率の導入はスポンサー団体である「日本アドバタイザーズ協会」が1990年代から強く求めていたことなのだ。スポンサー側としては、誰が観ているのか分からない局と番組には金を出せないというわけである。米国での個人視聴率導入は1980年代だった。

 今では詳細なターゲティングが出来るネット広告もあるのだから、スポンサーが個人視聴率を望むのは無理もない。なお、昨年の地上波全体の広告費が1兆6095億円なのに対し、ネット広告は3兆3330億円(電通「2023年 日本の広告費」)。個人視聴率が標準化していなかったら、スポンサーが今より離れ、ネットとの差はもっと広がっていただろう。

 とはいえ、全民放が40代以下の視聴者を狙ったら、番組が大きく偏ってしまう。だが、テレ朝は「オールターゲット戦略」という独自路線を敷き、全世代に向けて放送している。だから50代以上の視聴者が好む番組も多い。ただし、オールターゲットでありながら40代以下の視聴者はうまく獲得できていない。今後の課題だろう。

 一方、日テレの個人視聴率が落ちた理由の1つは看板バラエティの長寿化が影響していると見る。どんなに面白い番組であろうが、永遠には続かない。徐々に衰え、終焉を迎える。

 人気があるから続いたのだが、日テレのバラエティは本当に息が長い。「世界まる見え!テレビ特捜部」(月曜午後8時)は34年目に入った。「踊る!さんま御殿!!」(火曜午後8時)は28年目、「ザ!世界仰天ニュース」(火曜午後9時)は24年目、「行列のできる相談所」(日曜午後9時)は23年目である。

 バラエティ界で個人視聴率トップに君臨する「イッテQ」も18年目。いずれの番組もまだ高視聴率を保っているが、かつてのような圧倒的強さは感じられない。

 昨年の秋ドラマ「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さん(享年50歳)が今年1月、このドラマの制作をめぐって自死したと見られることも個人視聴率低下に影響しているに違いない。

 日テレに限らず、逮捕者や死者が出るやらせなど大きな不祥事を起こした局は、例外なく視聴率を落とす。その局全体の好感度が下がるからだろう。

 日テレは4月に「水曜ドラマ」(水曜午後10時)を土曜9時台に移し、「土ドラ9」と命名した。「水曜ドラマ」の後を受けて始まったのはバラエティ「世界頂グルメ」(同)。この戦略は成功した。

「世界頂グルメ」の個人視聴率は3~4%。水曜午後10時台ではテレ朝「報道ステーション」(月~金午後9時54分)の5~6%に次ぐ数字だ。

 日テレ関係者によると、「水曜ドラマ」の放送枠移動は同じ時間帯で放送されているTBSのバラエティ「水曜日のダウンタウン」(水曜午後10時)対策の意味合いもあった。

「水ダウ」と戦うなら、同じバラエティのほうがやりやすい。目論見は成功し、今は「世界頂グルメ」が個人視聴率で上回ることが多い。

 今後は50代以上に強いテレ朝が個人視聴率争いをリードし、40代以下に好まれている日テレがCM売上高競争での先行を続けるのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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