女子が男子よりもスマホでメンタルを病む理由 『スマホ脳』ハンセン先生が教えるメンタル改善法

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酒やタバコはNGなのになぜSNSはOK?

 オーストラリア議会が法案を可決した「16歳未満SNS使用禁止法」は、今のところ日本国内では現実味のある話としては捉えられていない。実のところ、オーストラリアにおいてもどこまで実効性のある法律となるかは未知数のようだ。というのもあくまでもこれは企業向けの法律で、親や子供など利用者側に罰則規定はない。

 SNSサービスを提供する事業者は16歳未満のアクセス防止措置を義務付けられ、違反すれば罰金を科すというのだが、どこまで有効な防止措置を取ることができるかも不明である。

 その実効性はさておき、こうした方針を対岸の火事と見ているばかりでいいかは別問題だろう。

 未成年に禁じているものは数多くある。飲酒、喫煙、大人向けのコンテンツの視聴などなど。いずれも彼らの心身への悪影響があるとみられているからだ。

 ではスマホやSNSはどうなのだろうか。すでにその悪影響に関する論文や報告は数多く出されている。酒やタバコがNGならばSNSにも何らかの制限があってもいいはずなのだが、その種の議論はあまり盛り上がっていない。結果、日本国内では低年齢層もSNSにはまる傾向が加速しているようだ。

 世間がそうである以上、わが子にスマホやSNSを禁じるのはなかなか難しい。せめてできることといえば、それらと適度な距離感を持って生きるよう導くことだろうか。

 世界的ベストセラーとなった『スマホ脳』の著者、アンデシュ・ハンセン氏が、この厄介な世界を生きる子どもと親に向けて書いた著書が『メンタル脳』(マッツ・ヴェンブラードとの共著・久山葉子 訳)である。同書には、SNSがメンタルに与える悪影響とそこからの脱出法について易しく語った章がある(第7章 なぜ孤独とSNSがメンタルを下げるのか)。特に男子よりも女子に与える影響は深刻だという。

 スマホやSNSにメンタルを左右されない、つまりは人生を左右されないための知恵をハンセン先生に聞いてみよう(以下、同書をもとに再構成しました)

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比較がメンタルを下げる

 今ほど自分がダメに思える理由が多い時代はいまだかつてありません。SNSでは常に、見た目には完璧な人生を見せつけられます。友人の修整済みの写真投稿(誰だって1番素敵な自分を見せたいですし、満足した写真しかのせません。それは皆同じです)、さらには何千人というインフルエンサーのキラキラした人生が連続投下されてきて、それと自分を比べてしまいます。後ろに見えている景色からインテリア、化粧、照明まですべてプロの手を借りていると頭ではわかりつつも、です。写真はもちろん編集されていて、ちょっとした難点くらいいくらでも隠せます。その結果、とてもではありませんが自分には手の届かないようなレベルになっています。

 自分にとっての自分(脳が見せる自分のイメージ。お世辞にもイケてるとは言えません)と他の人(彼らが見せたい素敵なイメージ)を比べたら、いつだって自分が負け犬、もう本当に完敗です。そして私たちの多くが、起きているほとんどの時間スマホを手にしているため、常に自分よりもかっこよく、賢く、リッチな人気者がいることを思い知らされることになります。

 その影響で、私たちはヒエラルキーの下へ下へと落ちていき、グループから追い出されるリスクが高まったように感じるのです。それを脳は何よりも恐れているはずなのに。

 とはいえ「人間はこれまでもずっと自分を他人と比較してきたのでは?」と思うかもしれません。それはそうなのですが、昔はグループも小さくてぱっと見渡せるくらいのサイズでした。ところが現代の私たちは世界中の人と競っているのです。

なぜスマホはメンタルを下げる?

 SNSを見ている時間やインフルエンサーの存在がどれだけ影響を与えているのか、正確に証明することはできませんが、グループのヒエラルキー内で自分の地位が下がり続けていると感じると、心の健康を害するのは実に当然のことです。

 様々な調査で、1日に4~5時間SNSをやっている若者は「自分に不満を持っている」「不安や気分の落ち込みを感じている」ことが示されています。とりわけ10代の女子にそれが顕著なのは、女子の方がスマホを見ている時間の多くをSNSに費やしているからかもしれません。平均的に言うと、同世代の男子はもっとゲームをしています。

 調査対象になった15歳女子の62%が心配、腹痛、不眠といった長期的なストレスの症状を訴えていて、80年代に比べてその数は倍になっています。

 私たちは必死でグループに属していようとした人たちの子孫です。1日に何時間も他人の完璧な生活と自分を比べてしまうことで、脳は「自分はヒエラルキーの1番下にいる。グループから追い出されるかも!」と勘ちがいしてしまうのです。それならば、自分にそんなメッセージを送る時間を制限する、つまりSNSを見る時間を減らすのが良いでしょう。

「SNSに費やす時間を1日1時間に留める」というのが具体的なアドバイスです。そうすれば心が元気になる可能性も上がります。

セロトニン・レベルの影響

 脳の中でつくられる「セロトニン」は驚くべき物質で、メンタルの様々な仕組みに影響するため、その役割も複雑です。しかし最も重要な仕事は、私たちが「どのくらい引きこもりたいのか」を調整することでしょう。セロトニンのレベルが低いとその人は自信を無くし、後ずさり、自分の殻に閉じこもってしまいます。これはうつによくある行動なので、一般的な抗うつ剤にはセロトニンのレベルを上げる効果があります。

 セロトニンの役割を理解するために、わかりやすい例を2つ挙げてみましょう。

(1)セロトニンのレベルを上げる薬の混ざった水に小さな魚を入れると、魚たちは自信満々になります。慎重ではなくなるので、大きな魚に食べられてしまう危険が上がります。逆にセロトニンのレベルを下げる薬の入った水に入れると魚は隠れてしまい、飢え死にする危険があるほど慎重になります。つまりセロトニンのレベルがちょうど良くないと自然界では命に関わるのです。

(2)カニはよくケンカをしますが、たいていは優勢な方のカニが相手を引き下がらせます。しかし劣勢なカニにセロトニンのレベルを上げる薬を与えると、そのカニは自分がヒエラルキーの上にいると思い込み、引き下がろうとしません。

 サルや人間といった大型生物のセロトニンもほぼ同じように機能します。ヒエラルキーの上位にいる個体は、人間でも脳のセロトニンのレベルが高いようです。それが社会的な自信につながっているのでしょう。

 さてここで、「グループの中の居場所を失うのが怖い」という話に戻ってみましょう。もうわかると思いますが、その恐怖はセロトニンのレベルが下がったことからきています。セロトニンのレベルを上げる薬を飲むと、多くの人のメンタルが回復するのもよくわかります。

 なぜこんな寄り道をしてまで魚やカニの話をしたかというと、「自分が思っているヒエラルキーの位置」と「その人の精神状態」は大いに関係があることを示すためです。先ほどの「SNSの時間を限定する」というアドバイスを思い出し、自分のメンタル改善に役立てましょう。

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 SNS上でキラキラした生活を送っていることをアピールする側にも大きなリスクがあることは最近の事例でも明らか。そんな人たちを見て、わざわざ自分のメンタルを下げる必要は一切ないのである。

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