板橋踏切殺人・監禁事件 決め手を欠いた警視庁は「逮捕直前ラスト12時間の任意聴取」に勝負をかけた 起訴時に「罪名が軽くなる可能性がある」
12月8日夜、警視庁は56歳の従業員に東京都板橋区内の踏切内で自殺するよう強要したとして、建築関連会社「エムエー建装」社長の佐々木学容疑者(39)と従業員3人を殺人と監禁容疑で逮捕した。事件発生から1年。警視庁が着手するまでには様々なハードルがあった。最後は報道各社にも取材自粛を要請し「ラスト12時間の任意聴取」にかける勝負に出た上での逮捕劇だった。(前後編の後編)
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【写真】逮捕5カ月前、取材班が捉えた「咥えタバコで自転車に乗るいじめ社長」
現場で「自殺を監視」していた不審な車
事件が発生したのは2023年12月3日深夜0時過ぎのこと。「エムエー建装」社員の高野修さん(57)が東武東上線下赤塚駅、東武練馬駅間の踏切内で志木駅発池袋駅行きの列車に跳ねられ死亡した。
一見、自殺に見えた事案であったが、警視庁が捜査を開始すると現場近くに不審な車が停車していたことが判明した。高野さんを車で現場に連れてきたのは同社従業員の島畑明仁(34)、野崎俊太(39)両容疑者。2人は踏切が見渡せる車中で高野さんが列車に接触するまで現場にいた。
その数時間前、2人は社長の佐々木容疑者と従業員の岩出篤哉容疑者(30)を加えた4人で高野さんを自宅アパートまで迎えに行っていた。踏切に行く前は、高野さんを車に乗せて4キロほどの距離にある橋に寄っていた。
さらに捜査を進めると、社内で高野さんが日常的にいじめを受けていたことも判明した。
警視庁は1年に及ぶ捜査を経て、4人が高野さんにいじめを繰り返した末に自殺するよう強要したという疑いを持った。そして8日夜、殺人と監禁容疑で逮捕に踏み切ったのである。(詳細は前編【「お前、とろいんだよ!」57歳従業員を踏切自殺に見せて殺害か 会社社長ら4人を殺人・監禁容疑で逮捕「肛門に棒、熱湯、プロレス技」壮絶いじめの果て】を参照)
1年もの時間を要したのは、立件するにあたりいくつもの障壁があったからだ。
当初は「いじめ」から立件する予定だった
島畑容疑者らは車から出て高野さんを踏切まで連れて行ったわけではなく、見送っただけとも言えなくもない。実際、4人は事件直後の任意の事情聴取で関与を否定した。
「だが、警視庁は4人でわざわざ迎えに行ったこと。その後最後まで現場にいた2人が、車で連れまわし、接触事故を起こす様子が見える場所にいたことを重視した」(警視庁関係者)
とはいえ4人を一斉に殺人罪で逮捕するには「決定打」に欠ける状況だった。佐々木、岩出両容疑者に至っては、アパートまで迎えには行ったものの踏切の現場にすら行っていないのだ。そこで当初警視庁が考えたのは、まずいじめについて先に立件する作戦だった。
「傷害や暴行で逮捕を3回ほど重ね、長期勾留中、自供を得てから本件殺人での立件を目指そうと考えた。捜査員は容疑者の携帯に残されていた『いじめ動画』を医師に見せるなどして、どのような怪我を負った可能性があるか見解を聞くなどの地道な捜査を進めました」(同)
この作戦を敢行するにあたり、警視庁が神経を尖らせたのはすでに捜査情報をキャッチしていた報道各社の動きだった。
「夏くらいには半分以上の記者クラブ加盟社が捜査一課の動きを把握している状況だった。そこで9月くらいに捜査一課幹部は記者クラブ加盟社に『傷害などで着手しても、殺人で立件するまでしばらく報道を控えてほしい』と要請を出しました。『殺人を視野に』などと報道されると取り調べに影響が出ると考えたのです。ただ一部の社からは『行き過ぎた報道規制で従えない』と反発があった」(同)
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