過去最高件数を更新した「M&A」の謎 そもそも何する? どう儲ける? 悪徳業者は? 業界団体トップにすべて聞いた

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京都・イノダコーヒ三条店の新装オープンの裏にもM&A

 一方、M&A業界の隆盛に呼応するかのように、耳にする機会が増えたのが“悪徳M&A”の問題だ。詐欺容疑で告訴された「ルシアンホールディングス」の事件が有名だ。

 茨城県にある納豆業者をM&Aで買収したものの、経営をほとんど行わないまま、会社の資金だけを“吸血”したケース等が報じられており、同様の被害は数十件にのぼると言われている。

「われわれM&A仲介協会の案件カバー率は約60%あります。本来なら“協会所属の企業であれば安心です”とアピールできないといけないのですが、残念ながら協会の会員企業でもルシアンと取引に関わった会社がありました。M&Aは不動産や金融商品のように、取り扱いに必要な資格がないため、悪徳な事業者の新規参入障壁を低くしてしまっている側面もあると考えています。この点はしっかり反省し、資格制度の創設など、自主規制ルールの強化を進めていきます」(荒井氏)

 ただ、荒井氏はM&Aの「社会的意義」についても強調する。

「個人的に心に残っている案件が、京都のイノダコーヒさんです。観光客にも人気な地元の老舗喫茶店なのですが、3代目のご夫妻は後継者問題を抱えていました。三条店はレトロな建物で有名でしたが、耐震基準の問題とコロナ禍で2022年3月から休業したままになっていた。その三条店が今年10月末にリニューアルオープンしたのですが、それを実現したのがM&Aだったのです」(同)

 買い手は投資会社が運営するファンドだった。オーナーの意向を汲み、売却は三条店の改装を含める事業の継続が条件とされていた。特に中小企業では、「なるべく高く売却する」ことよりも、「事業を適切な形で継続してもらう」ことに重きを置く経営者が少なくないのだという。改装前の調度品などを活かした三条店の内装は昔馴染みの常連客からも評判だそうだ。

「最近はM&Aの“負の側面”に注目が集まっていますが、本来M&Aとは、いい企業や優れた事業を後世に残していく、という公的な役割を担っています。我々としてはその自覚を持ち続け、これからも日本社会の役に立つ仕事をしていきたいと考えています」(同)

デイリー新潮編集部

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