三億円事件“有名すぎるモンタージュ写真”は「犯人に似ていない」…昭和の名刑事・平塚八兵衛が迫った「真の犯人像」
私は消え去るのみ
「どうかモンタージュのことは忘れてくれ」
と平塚氏が力説しても。特捜本部に寄せられる情報の7~8割は「モンタージュ写真に似ている男がいる」というものだった。平塚氏が在職中は、モンタージュに関する捜査はしなかった。平塚氏の退職後、時効まで半年となった特捜本部は、改めて事件に関する情報提供を募った。だが、やはりここでも寄せられるのは、「モンタージュに似た男がいる」とか「似ている男を知っている」というものだった――。
「年齢は35歳前後。ここ数年で急に羽振りの良くなった不審な男」
平塚氏が切望した情報はなかなか寄せられなかった。そして事件は時効を迎える。連載の最後を、平塚氏はこう結んでいる。
〈時効が成立した晩、私は自宅で、テレビに映っては消える、苦労を共にした仲間たちの姿を追った。そして、思わず目頭が熱くなるのを感じた。もうダメかもしれないという思いに悩まされながら、今日こそホシにブチ当たるのではないかという、わずかな希望にかけた毎日。警察官に“見切り”は許されない。どれほど苦しかったであろう。総監も刑事部長も一課長も一線の刑事も、思いはみんな同じだったに相違ない。その責任の一半 を背負って、私はただ消え去るのみである〉
【第1回「三億円事件が未解決なら『自殺でもしなくちゃならねえ』…昭和の難事件と対峙し続けた伝説の刑事『平塚八兵衛』という男」警視庁150年の歴史の中で数々の事件にその名を刻む名刑事の素顔】