「ねぇ、ちょっと手を握って」…野村克也さんが明かしていた「悪妻・サッチー」の知られざる最期

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“サッチー”ことタレントの野村沙知代さんが急死したのは、2017年12月8日のことだった(享年85)。死因は虚血性心不全。その2年3カ月後の2020年2月11日、“ノムさん”こと夫の野村克也さんも同じ死因で旅立っている(享年84)。

 ノムさんの離婚訴訟中に出会い、「愛人問題」として報じられ、後に「悪妻」「恐妻家」の代名詞的存在になった2人。だが実際は、「夫婦のことは夫婦にしかわからない」を地で行く固い絆で結ばれていた――。生前のノムさんが「新潮45」に語っていた、愛するサッチーとの物語。

(全2回の第1回:「新潮45」2018年3月号「妻に先立たれた男の話 『サッチーさんはラッキーガールだった/野村克也』」を再編集しました)

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女性上位の方が国は栄える

 野球でも「優勝チームに名捕手あり」というでしょう。結局はキャッチャー次第、つまり、女房役の存在が何よりも大きいんだよ。夫婦も奥さんにリードしてもらってるのが一番いいと思う。

 大会社の社長を何人か知ってるけど、お宅を訪ねると間違いなく奥さんが強い。玄関に三つ指をついて挨拶するタイプは見たことがないね。旦那さんが喋ろうとしても「アンタ、ちょっと黙ってて!」とピシャリ。反対に出世できない男の家に呼ばれると大抵、旦那が威張り散らしてる。女性上位の方が国は栄えるんだ。本当に強いのは女性だよ。いま、しみじみそれを噛み締めているところです。

 男ってのは厄介でね。奥さんがいる時は、その生活が当然だと思って疑わない。でも、いざ奥さんを亡くして無人の自宅に帰ると、なんとも言えない寂しさに囚われるんだ。初めて味わったよ、こんな感情は。奥さんが亡くなった去年の12月8日から、もうずーっとガックリしていますよ。

テーブルに突っ伏して動かなくなった

 あの日の昼過ぎ、俺が目を覚ましたら、隣のベッドで寝ていた奥さんが「ねぇ、ちょっと手を握って」と言ったんだ。こっちは「おいおい、どうしたんや?」ってもんですよ。初めてや、そんなこと言われたの。もしかすると、何か予感があったのかもしれない。

 その後、奥さんは食事をするためにダイニングまでやってきて、俺は隣の部屋でテレビを観ていたんだけど、すぐに「どうも奥さんの様子がおかしいんですよ」と、お手伝いさんが飛んできた。気になって近づいてみると、確かにおかしい。料理にはほとんど手をつけず、意識もはっきりしない。背中を叩きながら「大丈夫か?」と尋ねると、いつものように「大丈夫よ」と返ってきた。まもなくテーブルに突っ伏して、じっと動かなくなった。

 さすがに事の重大さに気付いて救急車を呼んで、担架で運ばれて行ったけど、その時にはもう事切れていたと思う。死因は虚血性心不全。本当に急死だった。奥さんはこれまで一度も大きな病気に罹ったことがない。兆候もなかったし、いつも通り平然と暮らしていたよ。それなのに、心の準備をする間もなく逝っちゃったからさ……。

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