「決着をつけましょう」と柳葉敏郎を説得…亀山千広Pが明かす「室井慎次」二部作を“家族の物語”にした理由と、「踊る」の“次”

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「組織のあり方はタテとヨコだけではない」

 実は亀山は、「男はつらいよ」や「時間ですよ」のような笑って泣けるドラマを作りたくてフジテレビに入社した背景を持つ。

「僕が編成部からドラマを制作するフジテレビの第一制作部に異動した90年4月当時は、すでにトレンディドラマが主流でホームドラマを作れるような雰囲気はなかった。それでも中村雅俊さん主演で『結婚の理想と現実』といったホームドラマ的要素が強いドラマを作っていたのですが、なかなか風当たりは強かった(笑)」

 30年のときを経て、亀山は現代的な解釈でホームドラマをプロデュースした。「家族に収斂していく物語を描けたのは、室井という財産がいたからです。彼のおかげです」。そう言って目を細める。

 だが、単なるホームドラマでは終わらない。踊るシリーズは、同時多発的に事件が起き、臨場感を伴いながら展開されていくことでも知られる。「室井慎次 敗れざる者」でも、室井が暮らす山奥で遺体が発見されたことを軸としながら、タカ、リク、杏、それぞれの物語が同時に進んでいく。

「踊る大捜査線 THE MOVIE2」で、室井は「本庁と所轄の別は問わない。階級や役職は忘れてくれ。自分の判断で動いてくれ」と言い放った。同作は、タテの指示命令系統型の組織(=警察)と、共通の被害者意識や思想で結ばれたリーダーなきヨコのネットワーク(=犯行グループ)の対峙を描き、その中で室井は青島の信念を実現するため、上と下をつなごうともがく。その姿を知っている者からすれば、「敗れざる者」と「生き続ける者」で、上でも下でも横でもなく、真ん中から血を通わそうとする室井の姿は胸に迫るものがある。組織のあり方はタテとヨコだけではないと、室井らしく最小限の言動のみで訴えかけてくるのだ。

続編はあるのか、の問いに亀山氏は――?

 ファンが気になるのは、“次”はあるのか? ということだろう。今作では、青島が警視庁の捜査支援分析センターにいることが明かされ、青島と和久平八郎(演・いかりや長介)が好んで食べていたカップ麺のキムチラーメンを室井が食べるなど、そこかしこに青島の気配が漂う。青島役である織田裕二が、サプライズ出演し、そのクランクアップの際に内緒で現場に駆け付けた柳葉から織田に花束を渡す映像は大きな話題を生んだ。

「今回の室井の映画によって、『踊る大捜査線』に初めて触れる人もいますよね。『踊る大捜査線』が生まれたのは27年も前だから若い世代は知りません。僕は、もう“作る”側の当事者ではないけれど、今に残していく方法はあると思っています。例えば、『スター・ウォーズ』が公開されたのは1977年ですが、今も多くのファンに愛されている。あくまで、“例えば”ですからね(笑)。何が起こるかは分かりません」

 そして、「まだ何がとは言えない」と何度も念を押した上で、「何か新しい踊るを始めるために、室井の姿を描いたのかもしれない」とだけ教える。

 この記事が公開される直前、12月4日には織田裕二主演で、「踊る大捜査線 N.E.W.」が2026年に公開されることもアナウンスされた。

 室井慎次によって、「踊る大捜査線」は今なお多くの人に待ち望まれていることが分かった。すなわちそれは、この作品そのものが“生き続ける”ものである――と言ってもいいのではないだろうか。

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部

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