「斎藤元彦氏はパワハラの極悪人」 読みが外れると「SNSが悪い」と自己正当化するテレビにへきえき(中川淳一郎)

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 テレビってエラソーですね。米大統領選と兵庫県知事選を通じて感じました。大統領選では「人格者のハリス氏が悪人のトランプ氏に勝つ」とやり続け、兵庫県知事選では「斎藤元彦氏はパワハラの極悪人。新しい知事が必要だ。稲村和美知事誕生を県民は待っている」の論陣を張りました。

 しかし結果は完全に真逆。となると、負け惜しみ表明が始まるわけですよ。というか、自分たちの読みが外れたことをなんとか正当化したがる。知事選の結果を伝えた「Mr.サンデー」(フジテレビ系)で宮根誠司氏は、大手メディアは選挙報道で平等性を重視し、ファクトチェックもキチンとすると説明。そのうえで、SNSは「そういうのをポーンと飛び越えちゃう」と暗にうそ情報ばかりがネットには流布していると述べたのです。大統領選挙の時も、あるコメンテーターがSNSでの情報発信の規制の必要性に言及しました。

 大統領選については、投開票日に「ハリス優勢」をテロップで流し、民主党寄りのコメンテーターを呼び、いかにハリス氏が優れた人物であるか絶賛し、史上初の女性大統領誕生に期待する番組を構成しました。

 そしてトランプ氏勝利が確定した時の専門家のあぜんとした表情と、お通夜のような空気。そこから先、彼らは「ハリス氏が負けた不可解さ」「まさかのトランプ氏勝利」的なことを言い出した。挙句の果てには学歴と年収が高い人が多い州ではハリス氏が勝利したと言う。暗に「トランプ支持者はバカで貧乏」と言いたかったわけですね。そして、「民主主義の危機」と言い出す。いや、選挙って民主主義を体現する制度でしょうよ。

 当初の読み通りいかないと「ネットの質の悪い情報を信じて誤った候補者に投票してしまった」という結論に持っていく。そうじゃないんです。テレビ自体が結局リベラル派のコメンテーターと専門家への取材と彼らの出演で成り立っているので、事前の番組ではハリス氏優勢、斎藤氏は悪人、という方向で突き進む。現実が伴わないと「あ……、外れちゃったな(愚民のくせに選挙行くんじゃねー)。そうだ、SNSが悪いことにしよう!」という話に持っていく。

 あと、アメリカの情報であれば西海岸と東海岸のリベラルな地域の支局発です。アメリカの政権や議会内部に食い込んだりする取材力はそれほどないでしょうから、自ずとリベラルな現地メディアの報道を参考にすることとなる。その情報を日本に伝えるからますます「ハリス氏優勢」の論拠が積み重なっていく。

 しかし、これらは論拠ではなく「願望」です。そして願望通りにならないと「何かがおかしい」と、バグを発生させた要因を勝手に分析し、何かを悪者にする。11月中旬は人事を問題視しました。厚生長官という健康を司る要職にロバート・ケネディJr.のような「反ワク」の陰謀論者を据えただと! 世界の健康が脅かされる! 「政府効率化省」トップはXのイーロン・マスク氏。あんな偏ったうそだらけのSNSの運営トップを要職に就けるのはけしからん! 政府に批判的なことを書いていないか検閲されるぞ! と脅す。とことん自分勝手ですね、テレビ君。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年12月5日号掲載

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