「ライオンの隠れ家」「宙わたる教室」そして…秋ドラマ【必見の3本】 絶対にラストまで見たくなるヒット作の“共通点”
犠牲の上に成り立つ
「海に眠るダイヤモンド」は昭和の高度経済成長期の炭鉱町・端島(通称・軍艦島)と現代が舞台。端島編では肉親愛、恋愛、隣人愛が感動的に描かれている。
炭鉱員が坑内で行方不明になった仲間を命懸けで救い、同僚愛を表す場面もあった。今は多くの企業が査定を導入し、同僚をライバル視する風潮が強まったことから、目頭を熱くした人は多いはず。作品側が用意したキャッチコピーも「あの頃 人々は 輝いていた」である。
第6回。この物語に横たわるテーマがようやく明かされた。口にしたのはリナ(池田エライザ)である。端島編の主人公・荒木鉄平(神木隆之介)の兄・進平(斎藤工)の内妻だ。
「今の幸せの下にはたくさんの犠牲がある。海の下にある石炭。石炭って植物の死骸だって言うでしょ。植物の死骸に私たちは生かされている」(リナ)
第5回で進平は本土からリナを追ってきたヤクザの小鉄(若林時英)を殺し、海に沈めた。だが、リナの言葉は個人のことのみを表しているわけではない。普遍的なものだ。それは「私たち」という主語にも表れている。
この作品は進平が戦争で人を殺めてしまったことに対する心痛にも触れた。長崎市への原爆投下によって、鉄平の兄と姉2人、友人の百合子(土屋太鳳)の姉が絶命したことも描いた。
脚本を書いている野木亜紀子氏(50)は、現在の日本は数々の犠牲の上に成り立っていると言いたいのだ。
端島編における銀座食堂の朝子(杉咲花)は、現代編ではIKEGAYA株式会社社長の池ケ谷朝子(宮本信子)になっていることが第5回で分かった。
IKEGAYAの業種ははっきりとは説明されていないものの、池ケ谷が第3回で鉄平と瓜二つのホスト・玲央(神木、2役)に対し、自宅屋上に植えた桜の木を見せながら、「うちの会社に施工させたの」と語っている。
IKEGAYAは都市部における造園業などを手掛けているのだろう。朝子は第6回から高層職員住宅の屋上で庭園づくりを始めた。その道を現代まで歩んだことになる。
次の第7回は端島の鉱山の坑内でガス爆発による火災が発生する。坑内には鉄平と進平の父親・一平(國村隼)がいる。兄弟は救助活動に乗り出す。
この火災は1964年に起こるという設定だが、同じ年の端島でも実際に坑内火災が発生した。1人が死亡し、負傷者が多数出た。この火災を機に端島は衰退し、1974年には閉山する。
池ケ谷によると、鉄平の行方は分からない。鉄平が残したノートには坑内火災の記述もあるから、火災の犠牲になったわけではない。鉄平は何らかの理由で火災か消火活動への責任を感じ、姿を消してしまうのか。
「科学の前ではみんな平等」
「宙わたる教室」は元エリート惑星科学者の藤竹叶(窪田正孝)が「やりたい実験があるので」と言い、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からの誘いを断り、東京の新宿にある高校の定時制の教師になる。ここで藤竹は科学部をつくった。
部員は21歳の元不良少年・柳田岳人(小林虎之介)、日本人とフィリピン人のハーフで義務教育を満足に受けられなかった40代の越川アンジェラ(ガウ)、体も精神面も脆弱で保健室登校を続けている16歳の名取佳純(伊東蒼)、集団就職で上京した70代の元町工場経営者・長嶺省造(イッセー尾形)。世間がエリートとは見ない4人である。
だが、4人は情熱とチームワーク、さらにアイデアと藤竹の適格なアドバイスによって、「火星のクレーターの再現」という画期的な研究を成し遂げた。感動的だった。出身校や通う学校の偏差値によって人間の価値まで決めてしまうような風潮が強まっているから、なおさらである。
これが藤竹の「やりたい実験」だったことが第9回で分かった。藤竹はエリートであろうが、なかろうが、「科学の前ではみな平等」と信じていた。それを証明したかったのである。
発端は藤竹が大学の助教をしていた当時の教授・石神怜生(高島礼子)が、研究を手伝ってくれていた高専生・金井悠(佐久本宝)の実験データを流用し、論文を書いたこと。論文に金井の名前はなかった。
石神は悪びれず、「高専の学生の名前を入れたら論文の格が下がる」と言い放った。藤竹は許せず、大学を去った。珍しいタイプではないが、石神は冷酷で人間を立場でしか見ない。
一方で藤竹は静かな男なのだが、内面が熱い。柳田を悪の道に引き戻そうとした不良と対峙した。ほかの3人や生徒のためにも労を惜しまなかった。観る側も熱くした。
次回は最終回。4人は研究成果を学界で発表する。また感動がもたらされそうだ。
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