米国で新興財閥トップが起訴…インド政治と経済を揺るがす「大スキャンダル」発生 西側諸国との対立を深める「上から目線での介入」

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インド議会は機能不全

 アダニ・ショックはインド政界にも波紋を呼んでいる。

 アダニ氏とモディ首相は同じ西部グジャラート州の出身で、密接な関係があると指摘されてきた。アダニ・グループの事業急拡大が、モディ氏の政治的成功と軌を一にするかのようだったことから、野党はモディ政権の保護があるとして非難している。対してインド政府はこうした主張を否定しており、今回の疑惑についても見解を示していない。

 この問題が災いして、インド議会は機能不全に陥っている。11月21日、野党はインド議会としてもアダニ・グループの疑惑を調査するよう求めたが、与党はこれを拒否した。そのため、議事進行の目途は立っていない。

 気になるのは、与党インド人民党(BJP)幹部の間で「議会の会期直前、トランプ次期大統領就任が迫っているこのタイミングでの起訴発表にはいくつかの疑問がある」という不満(11月21日付ロイター)が生まれていることだ。

 西側諸国では近年、民主主義の伝統を根拠に「インドとは共通の価値観を共有している」との見方が広まっているが、専門家は「インドと西側諸国はお互いの世界観を共有していない」と反論する。インド人が植民地支配時代に負った心の深い傷がいまだに癒えていないことが大本の原因だ(11月23日付日本経済新聞)。

上から目線で介入してくることへの苛立ち

 昨年1月、インド政府が開催した「グローバルサウスの声サミット」でジャイシャンカル外相は、「(グローバルサウスの国々は)植民地時代の過去の重荷を背負い、現在も世界秩序の不公平さに直面している」と述べた。

 この発言はルサンチマン(弱者が強者に対して抱く恨み)的な感情に裏打ちされていると筆者は思う。西側諸国には植民地支配に対する反省がないばかりか、今も「西側基準の行動様式から逸脱している」と上から目線で介入してくることへの苛立ちだ。パワーを身につけ、自信を深めつつあるインドにとって、これほど不愉快なことはないだろう。

 アダニ・ショックを引き起こした米司法当局の起訴について、前述のBJP幹部がこのような不快な思いをした可能性は十分にある。

 2000年代に一連のテロ攻撃に苦しんだインド政府にとって、国内の治安維持は最優先課題だ。このため、インド政府は現在、米国やカナダ在住のシーク教徒殺害を巡って西側諸国と対立を深めている。

 西側諸国との蜜月時代は短期間で終わってしまうのかもしれない。インドの動向については今後も細心の注意を払うべきだろう。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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