ついに“復権”に動き出した「岸田前首相」 立て続けに「石破総理」と面会、主要ポストは「旧宏池会」が奪い、党内には“再登板”の声も

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党務でも存在感

 党務での旧岸田派メンバーの存在感はさらに大きい。4役は政調会長に小野寺五典・元防衛相、選対委員長に木原誠二・元幹事長代理と2ポストを占める。小野寺氏も従来、外交、安全保障などの面で石破首相が実力を評価してきた一人である。木原氏は岸田政権で官房副長官を務めるなど当時の岸田首相を支えるのに奔走した。

 このほか、参院幹事長の松山政司・元一億総活躍担当相は「丁寧な人当たりと実直さが持ち味」(中堅議員)とされ、徐々に権力基盤が浸透しつつあるようだ。党政調で大きな力を持つ税調会長の宮沢洋一・元経済産業相は、岸田氏の親戚筋である。また、広報本部長の平井卓也・元デジタル相、政治改革本部長代行として懸案の政治資金改革を手掛ける田村憲久・元厚労相も旧岸田派だ。

基本路線を受け継ぐ

 政治資金の不記載問題を受けて派閥の多くが解散したが、旧岸田派は「メンバーが比較的均質で解散後もまとまりがある」(ベテラン議員)と受け止められている。一方、石破首相は、かつて自身の派閥を率いたが、総裁選での敗北などを機に数年前、掛け持ち可能な緩やかな政策グループへと衣替えした。以降は派閥に属していない。守旧派的なしがらみが薄く、改革を印象付ける「石破カラー」を看板とする半面、党内基盤の源泉である「数の力」は不足する。10月の衆院選で自民、公明両党による連立与党は過半数に届かず、自民党では退陣要求を含めて執行部の責任を問う声が相次いだ。

 12月1日に地元鳥取県で神社に参拝した際、石破首相は「政府は野党の言うことに誠実に耳を傾けているという世論が高まっていく以外に難局、少数与党という状況を乗り切っていく手立てはないのではないか」と記者団に述べ、容易ではない政権運営の状況を率直に語っている。

 このため、相当規模で「チーム岸田」を維持する岸田氏のバックアップは大きな支えとなる。デジタル田園都市国家構想担当相のポストがなくなるなど、岸田政権の目玉政策のうちの一部は名称を変えたりするものの、石破政権は賃上げ重視といった基本的路線を受け継いだ。資産運用立国の提言を受け取ったのも、この延長線上にある。

再登板の臆測も

 これらを背景に、一大事があれば岸田氏が首相として「再登板」するとの臆測すら呼んでいる。とりわけ来夏には参院選を控える。石破首相が参院選勝利に向けて全力を挙げる方針であるのは論をまたないが、仮に来春の予算成立後に内閣支持率が低迷していれば、参院選を乗り切れないとの観測が強まる可能性も否定はできない。その場合、主流派が政権を引き継ぐとしたなら、林氏らに加え岸田氏の名も取り沙汰されるというわけだ。

 軽武装・経済重視の流れをくむ旧宏池会に属した岸田氏は、党内ハト派の系譜に連なる。これに対し、石破氏は旧防衛庁長官や防衛相などを歴任し、軍事や安全保障に通じた改憲論者として地歩を固めてきた。党務や政策では長らく接点の少ない道を歩んできた一方、両氏は同い年であり、ともに国会議員経験者を父に持つ。大学卒業後に銀行に就職するなど重なる部分は意外に多い。こうした共通点がコミュニケーションのしやすさにつながっているであろうことは、見過ごせない側面だ。

 政治資金の不記載問題に端を発した政局劇は、先の総裁選により、旧安倍派、麻生派が非主流派となった。しかし、衆院選で石破政権も与党過半数を割るというつまずきがあり、こちらも土俵の徳俵に足が掛かった状態となった。文字通りの「猫の目政局」である。総裁選で競り合いながら敗れた高市早苗・前経済安全保障担当相、有志議員の勉強会を発足させた小林鷹之・元経済安全保障担当相のほか閣内外を問わず、隙あらば「次」をうかがう動きは出てくるに違いない。

 党外では、政権交代を狙って野党の攻勢が激しさを増す。変数が多く、長い神経戦の火ぶたは切って落とされたばかりである。権力者としての岸田氏の一挙手一投足から目が離せない。

市ノ瀬雅人(いちのせ・まさと)
元報道機関勤務。政治分野などを担当した。

デイリー新潮編集部

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