民主国家としての未熟さが露わに…「韓国の戒厳令」は5カ月前に予言されていた 朴正煕政権のデジャブ

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1972年、再び

 尹錫悦政権は対北強硬策を採用しました。その北朝鮮はウクライナ戦線への派兵と引き換えに、ロシアに軍事同盟を結んでもらいました。

 ロシアは韓国に対し怒り心頭に発しています。米国の圧力でウクライナに大量の155ミリ砲弾を供与したからです。米国経由の形ですが、韓国製砲弾を撃ち込まれるロシアは連日、韓国を威嚇しています。

 冷戦時代の再現です。ただ、その時代には米国が後ろ盾になってくれていた。ところが11月5日の選挙で当選し、2025年1月から大統領に返り咲くトランプ(Donald Trump)氏は、韓国との同盟に極めて消極的です。

 今回の大統領選挙では「韓国の防衛分担費用を9倍に引き上げさせる」が公約でした。1期目の終わり頃「2期目になったら真っ先にすべての在韓米軍を撤収する」との意向を周辺に漏らしていました。

 当時、国防長官だったM・エスパー(Mark Esper)氏が退任後に書いた『A Sacred Oath』の548-549ページで明かしています。

 中国との関係はすでに悪化しています。バイデン(Joe Biden)政権によって、対中半導体包囲網に引きずり込まれたからです。次期トランプ政権が対中圧力を増すのは確実です。

 来年以降、韓国は「四面楚歌」に陥ります。1972年の朴正煕(パク・チョンヒ)政権の置かれた状況と似ています。当時の韓国は中ソとは国交もなく敵対国のまま。北朝鮮とは南北会談を通じて関係改善を探りましたがうまく行かない。そこに米国が在韓米軍の撤収に動いたのです。

 朴正煕大統領は安保危機が政権基盤を揺らすと懸念し、戒厳令による強権政治に乗り出しました。

核武装も後追い

――なるほど、今と実に似ている。

鈴置:朴正煕大統領はもうひとつ取り組みました。核開発です。米国から見捨てられる以上、自分で核を持つしかない、との判断です。

――尹錫悦政権も?

鈴置:それも似ています。韓国の保守の言説からは、核武装の兆しが読みとれます。日本は、ここを見据える必要があります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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