爆弾小僧「ダイナマイト・キッド」の素顔…引退した初代タイガーマスクとの知られざる「最後の一戦」

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知られざる爆弾小僧の素顔

 ところで、素顔のキッドは、どうだったのか? 初期のライバルであった藤波辰爾が語る。

「巡業中はそうでもないんだけど、試合に向かう控室では、ずっと1人でいた印象だね。周りを寄せ付けないというか」

 触れればこちらが怪我するようなキッドの行動は、リング上だけにとどまらなかった。

 ファンサービスであるリングからのサインボール投げでは、豪速球で客席に投げ込んだ。入場時、背中を叩いたファンはその場でKOされたり、もしくはその場で下着1枚にされたりした。しかもこの暴状で、キッドは新日本時代に2度、警察に連行されている。中学2年生だった小橋建太が、ファンとしてサインをねだると、その色紙を真っ二つに裂き、床に叩きつけたことも。

 相手がレスラーになると、対応はさらに厳しくなった。関係者の酒席でナンパを繰り返す選手を、パンチでKOした。こちらから挨拶を2度したものの、答えない後輩レスラーの後頭部を、アタッシュケースで殴った。グラビアで笑顔を見せている若手レスラーには、「プロとしての気構えがなってない!」と怒った――。

 ファイターとしてのプロレスラー像を過分なまでに体現したそのプロ意識。それ自体がキッドの肉体をむしばむようになって行ったのは、1985年3月の、本格的なWWF入りからだった。

 WWF世界タッグ王者(パートナーはデイビー ボーイ・スミス)となると、13週間休みなしのハードスケジュールを強いられた。巨漢レスラーがひしめく同団体で、力負けせぬよう、ステロイド(筋肉増強剤)を大量注入。常態化した体の痛みに、鎮痛剤が手放せなくなり、コーチゾン(関節炎の治療薬)はもちろん、痛みを麻痺させるためスピードやLSD等、良からぬ薬物にも手を出した。最終的には、競走馬用のステロイドまで注入していたという。

 ここまで酷使した体が無事であるはずもなく、1986年12月13日の試合で、ジャンプしようとした際、背中に切られるような激痛が走り、昏倒、そして失神。目が覚めると病院のベッドの上だった。背中にある椎間板が、断裂していた。

 WWFとの関係をフィニッシュし、1989年1月より全日本プロレスへと活躍の場を移した。時は、天龍源一郎による“天龍革命”の成熟期だった。しかしキッドは、ステロイドの使用を自重したこともあり、肉体が傍目にもわかるほど、急速にしぼみ始める時期だった。

 キッドは天龍と、タッグマッチで対戦(天龍&サムソン冬木vsキッド&デイビーボーイ・スミス。1989年1月25日。大阪府立体育会館)。天龍の逆水平チョップを食らったキッドはコーナーに下がり、よほど効いたのか、体のあちこちをストレッチのように動かした。そして、再びタッチを受けて天龍と対すと、ほどなくして、天龍は流血していた。キッドが強烈なエルボーパットを10連発で天龍のアゴに叩き込み、切ってしまったのだ。キッドの闘志は、全く衰えていなかったのである。

 アゴからの出血という異常事態に、“一線を越えた試合”と報じる向きもあった。だが試合後、通路でキッドとすれ違った天龍は、拙い英語で、こう声をかけている。

「キッドさん、今夜のエルボーは、とてもシャープでしたよ」

 アゴを押さえながらも、笑顔だったと伝えられる。

 とはいえ、キッド自身、むしばまれていた肉体から、現役はもう長くないと感じていたのか、目をかけて いた全日本プロレスの若手と対決の直前、こう言ったこともあった。

「君にはもう、俺を倒せるだけの実力があると思ってるよ」

「いえ、自分はまだまだ……。キッドさんのファンに許されませんよ」

「そういう問題じゃないさ」

 目の前にいたのは、あの日、サイン色紙を破られた、小橋建太だった。

 キッドは1991年の末、当日発表という形で全日本プロレスの日本武道館大会で引退。余りにも突然であり、また33歳だったため、こう進言する関係者もいた。

「少し楽が出来る試合に、シフトチェンジすればいいさ」

 キッドの返答は、明快だった。

「全力ファイトが出来ないなら、俺が俺である意味がない」

 事実、キッドはこの後、数回、日本のプロレス団体の求めで復帰しているが、先の自伝では多大な後悔の色をにじませている。

 最後に公の場に出たのは、2013年、地元イギリスでのファン・ミーティング。車椅子姿だった。そして2018年12月5日、60歳で逝去。自伝の最後部に書かれた言葉を紐解きたい。

〈俺は生まれ変わっても再び同じ世界に身を投じるだろう。そして何が起ころうとも自分のやり方を変えるつもりはない〉

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