雑誌の休刊が相次ぐいま、鉄道会社の「車内誌」に集まる注目 多ジャンルの愛好家から一目置かれる「企画力」とは

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車内誌の先行きは不透明である

 いずれも地学の専門誌やアニメ雑誌では見られない独自の着眼点で、意表を突いた企画ばかりであり、見事というほかない。もともと、お堅いイメージがある媒体で意外性のある特集が組まれると反響を呼びやすい。現に、「トランヴェール」の一連の特集はSNSで評判となった。記事を読むために新幹線に乗る人が現れ、フリマサイトなどで高額転売される騒動も起こっている。

 ところが、「トランヴェール」も担当者の意向によるものなのか、最近は漫画やアニメの記事がほとんど作成されなくなっている。かわりに見られるのが、沿線の歴史や食などを取り上げた、いわゆる王道的な特集である。丁寧な取材と質の高い文章は健在であるものの、食の情報はネット上にいくらでも転がっている。地学などのマニアック寄りの特集の比重を多くしてほしいと思うのは、筆者だけであろうか。

 ただ、「トランヴェール」もいつまで刊行されるか、先行きは不透明である。経費節減の影響が大きいと思うが、コロナ禍以前と比べるとページ数が大きく削減されてしまったためだ。それでも、発行元のJR東日本企画が刊行を続けているのには頭が下がるし、担当者の信念があるためかもしれない。一ファンの立場から、このまま刊行が続くことを願ってやまないのである。

経費削減で廃止される社内誌、社史

 出版業界では紙の雑誌が相次いで休刊になっているが、書店の流通に乗らない紙媒体も人知れず消滅しつつある。例えば、ひと昔前の大手企業には、社員や取引先に向けた社内誌や社内報が存在したものだ。しかし、その多くは経費削減の一環で廃止されてしまった。当時を知る元大手企業の社員は、「読者投稿欄があって、社員同士が交流を図る場だったが、なくなってしまったのは残念」と嘆く。

 社史を編纂する企業も減少していると聞く。社内誌はおろか、社史までなくなると、企業の歴史が後世に正しく伝わらなくなることが危惧される。筆者が取材をするなかで感じることだが、知名度の高い大企業からも「当時の記録が残っていない」と回答されることが増えた。近年、恒久的に保存が効くと考えられていた電子媒体が、紙媒体より保存性に劣ることが判明しつつあるが、歴史の継承のためには紙で記録することが重要なのだ。

車内誌・機内誌は企業と地域を結ぶメディア

 歴史が比較的新しい航空会社のスカイマークは「空の足跡」という機内誌を維持しているが、就航地との絆を重視しようという姿勢の表れなのかもしれない。また、実際にスカイマークに乗ってみるとわかるが、機内誌を手に取っている乗客は意外に多い。ちょっとしたスキマ時間に読みやすいため、掲載された情報をきっかけに旅に出てみようと考える人も多いのではないだろうか。

 ましてや、鉄道会社の車内誌は単なる広報誌の枠を超えた存在といえる。確かに、取材と編集を行い、印刷、配布する手間は大きいだろう。だが、既に述べたように、部数を気にしなくてもいい車内誌の強みは確実に存在する。取材を通じて地域の埋もれていた魅力が発見され、観光資源になった例も多いと推測される。車内誌をなくせば、そうした機会がまるごと失われてしまうだろう。

 近年、JR東日本は相次いで鉄道路線を廃止し、駅の時計を撤去したり、みどりの窓口を閉鎖したりと、コストカットに熱心である。こうした方針に沿線住民から反発が起こっているのは周知の通りだし、SNSではバッシングが絶えない。そんな風潮だからこそ、車内誌は存続すべきではないか。沿線の人々が鉄道に親しみを抱いてくれるきっかけをなくしてしまうのは、得策ではないはずだ。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部

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