斎藤知事「支援」で話題のPR会社 「オープンなオフィス」からも読み取れる承認欲求
「情報公開」は通常、ポジティブな意味で用いられることが多い言葉。しかし目下、TPOも配慮もない「情報公開」によって、斎藤元彦・兵庫県知事に新たな疑惑が浮上したのはご存知の通りである。斎藤知事の選挙戦に関わったPR会社「merchu」社長がネットで公開したコラムで明かした活動ぶりが、公職選挙法違反に当たるのでは、との指摘を受けているのだ。
この社長の日常における情報公開への積極性もまた話題を呼んでいる。高級ブランドのバッグ、リゾート地でのバカンス、高級ホテルでのアフタヌーンティー……自身の生活を彩る要素を惜しげもなくネット上で公開。コラムやSNSから彼女の「承認欲求」の強さが感じられるという見方を示す人も多い。
その「承認欲求」というキーワードで見れば、興味深いのは同社のオフィスだ。これまた公開されている写真(とイラスト)からは、高級マンションの一室のようなオープンなスペースで和気あいあいとチームが働く様子が伝わってくる。若くて明るいスタッフたちが楽しく働いている様はまるでテレビドラマのワンシーンのようだ。
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もちろんこれが同社のオフィスすべてではないだろうが、目指すオフィス像は伝わってくる。仕切りのない場所で、上司も部下も対等に働く。そんなオフィスを具現化しているようだ。
ところが実はこのオフィスのあり方もまた、承認欲求と密接に関わっているという見方がある。仕切りのないオフィスは、上司の承認欲求の産物だ、というのだ。
どういうことか。組織研究の専門家、太田肇氏は著書『日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―』で、一見オープンな「仕切りのないオフィス」の問題点を指摘している。太田氏による分析をご紹介ししよう(2024年4月4日配信記事をもとに再構成しました)
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株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した「新入社員意識調査2023」によると、新入社員が理想とする働きたい職場の特徴で「お互いに個性を尊重する」は過去最高の50.7%だった。これは2010年調査開始以来で最も多い回答率で、一方、「アットホーム」(37.3%)、「活気がある」(25.3%)、「お互いに鍛えあう」(11.4%)は過去最低だった。
若者たちが「アットホーム」さを敬遠するのは、ずっと上司に見張られている気持ちになるからかもしれない。が、日本企業の会社の多くは、仕切りのない大部屋で上司も部下も一緒に働くスタイル。実はこのスタイルは欧米ではあまり見られず、日本独特のものだという。
組織論、人事管理論を専門にしている同志社大学政策学部教授・太田肇氏は、このような日本企業特有のオフィス形式について、「承認欲求」が大きく関わっていると言う。
承認欲求と大部屋オフィスの関係とは?
太田氏はこう語る。
「グローバル企業の多くは世界共通の職制、人事制度を取り入れており、日本支社でも欧米と同じように個人の分担が明確です。ところがオフィスを見学すると、はっきりとした違いが目に入る。海外では管理職は個室で仕事をするのが普通であり、非管理職のデスクもパーティションで仕切られているのに対し、日本では管理職も大部屋で、デスクも仕切りがないか、あっても高さの低いところが多いのです」
仕事柄、さまざまなオフィスを訪ねる機会がある太田氏は、社内の人々に大部屋の理由を尋ねてみた。すると主に管理職が「大部屋、仕切りなし」を望むからという答えが返ってきたという。
「コロナ禍以前から、日本ではテレワークの導入に賛成しない管理職が多いという話がよく聞かれました。今回のコロナのまん延によって、感染対策として日本でもオフィスに仕切りを設ける企業が増え、日本企業もようやく変わってきたかと思い、さっそくオフィスをのぞいてみました。
すると、たしかに一人ずつ仕切られているのですが、仕切りは透明のアクリル板。これならウイルスの侵入は防げるかもしれないが、視線は防げない。視線を遮らないことはそれほど大切なのか、と思わず苦笑してしまいました」(同)
なぜ、日本の管理職は大部屋で働きたがるのか?
海外のドラマなどで描かれるオフィス風景では、確かに上司には個室が与えられ部下とは明確にスペースが区切られている。
「トイ・ストーリー」などの作品で有名なアメリカのPixarでは、社員一人一人に入社初日から個室が与えられるという。周囲の視線を気にせず思う存分クリエイティブに働けるというわけだ。
一方、「釣りバカ日誌」では1部上場企業の役員である佐々木さんと、万年ヒラ社員の浜崎伝助がフラットに机を並べている。
そもそも、一体なぜ日本企業では管理職が部下と一緒に大部屋で働きたがるのか。
「大部屋で仕切りのないオフィスでは、上司が部下の仕事ぶりを常にチェックできます。そのため部下は、上司の視線や言動をいつも気にしていなければならない。さらに、取るに足らないひと言や、表情、態度、服装、身なりの変化にも部下は耳を傾け、注目する。それが上司の承認欲求を満たしてくれるのです。
加えて、日本では管理職が個室に入らず、大部屋で部下と一緒に仕事をすると、オープンマインドで部下とのコミュニケーションを大切にする民主的な管理職だと評価されがちです。
しかし当然ながら、部下と机を並べて仕事をしているからといって、上下関係がなくなるわけではありません。
テレワークはこうした状況から部下を解放したという面があります。が、それは上司にとっては承認欲求を満たす機会を減らしたともいえる。大部屋への出社を望む上司は、意識しているか、していないかは別として、どこかで部下から常に承認される場を求めているのではないでしょうか」(同)
要するに「大部屋、仕切りなし」、おまけに仕事の分担が不明確で部下が上司に依存するという日本の職場は、上司の承認欲求が自然に満たされる構造になっているのだ。しかも世間では、それが平等主義的だとか、民主的だとか評価されるのだから、上司にとってはいっそうありがたいことだろう。
しかしそれはあくまでも上司にとって快適な空間ということに過ぎない。部下やスタッフにとっては、常に上司が目に入る、上司の目に入る環境が働きやすいものかどうかはかなり怪しい。同僚との距離の近さも時には強いストレスのもととなるだろう。
何でも「オープン」がいい、というわけではなさそうだ。