完全に死語となった「仕事が忙しくて寝てない自慢」…むしろ「よく寝る」ことがビジネスマンの常識に

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安静にするしかないね

 むしろ、短時間しか寝ることができない人間は仕事の効率性に問題があると思われる節すらある。まあ、「残業自慢」も無能の象徴になっている昨今の状況であれば当然であろう。そのため、今後「睡眠不足自慢」「徹夜自慢」をするとバカにされるので、モーレツサラリーマンや「24時間戦えますか?」を標榜する古い人物は考えを改めた方がいい。

 振り返ると、こうしたバカげた自慢は子供時代にも多数あった。中でも最大のものは「骨折をした」だ。子供は無茶をするため時々骨折をする。すると、ギプスをし、三角巾をつけて登校することになる。すると、なぜかこの少年はドヤ顔を決めるのだ。皆が彼のことを「勇者」扱いするからだ。

「痛かった?」と聞かれても「折った時は痛かったけど、まぁ、大丈夫だよ。安静にするしかないね」と誇らしげな表情をしたものだ。周囲の友人は骨折という恐怖のケガを耐えるこの少年に対し畏怖の念と敬意を持つようになる。そして、この少年は骨折時代を振り返り、「あの時は不便だった。お前らも骨折するなよ。何しろ片手が使えなくなるからな」などと言うのだ。

苦笑の対象になった「睡眠不足自慢」

 骨折というものは、若ければ若いほど治りは早い。何しろ体が成長するものだから、骨の回復も早く、くっつくスピードが大人とは段違いなのである。他にも自慢として存在するのが「点滴を受けたことがある」だ。何らかの不調で栄養が足りていない時に点滴はするものだが、多くの子供にとって「テンテキ」という言葉は意味がよく分からない。ただ、ベッドに横たわり、チューブに繋がれて針を刺される行為というものは、なんらかの過酷な修練を経たように思ってしまう。だからこそ「オレ、点滴したんだ!」「オレもした!」「お前、したことある?」「ないよ……」「えっ? ないの(笑)」といった展開になる。

 さらには、「一人で飛行機に乗ったことがある」「スキーに行ったことがある」もなぜか憧れの対象となった。まぁ、子供時代の自慢なんて「足が速い」が最上級にあるわけで、そんなものはアスリート以外正直将来的に何の役にも立たない。どうでもいい自慢というものは後に冷静に振り返ると苦笑の対象だ。今、「睡眠不足自慢」が苦笑の対象になって本当に良かった。寝るのが好きな皆さん、バンバン寝てください。その方がパフォーマンスは上がります。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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