大ヒット「室井慎次 生き続ける者」に登場した“秋田の古書店”…実は雑司ヶ谷の「映画ファンの聖地」だった!
カツドウヤの素晴らしさを実感
「その方が、映画『室井慎次』2部作のスタッフだったんです」
と、瀬戸店長が回想する。
「要するにうちでロケしたい、ついては、どういう映画で、どういうストーリーで、どんなシーンなのか、舞台が秋田であることもふくめて、ていねいに説明してくれるんです。とても感じのよいひとで、しかも、映画好きであることが、ヒシヒシと伝わってきました」
そのとき、瀬戸さんは、青年の右手の親指に、けっこう大きなケガの痕があることを、見逃さなかった。
「どうしたんですか、と聞きました。すると、カメラの移動撮影中、レールに親指をはさんでしまったというじゃありませんか。もうこれで決まりでしたね。どうぞうちでよければ、と了承しました。そもそもわたしは、『踊る大捜査線』や青島刑事、嫌いじゃないんです。『事件は現場でおこってるんだ!』みたいな」
撮影は5月14日(火)と決定した。その日は休店日だったので、ちょうどよい。瀬戸さんは「まあ、お昼くらいにスタートかな」とのんびりかまえていた。
「ところが、朝7時スタートだという。ふだんは昼過ぎに開店しているような店ですから、焦りました。しかしがんばって、朝6時半には来て、店をあけましたよ」
さっそく、撮影隊一行がやってきた。実は「古書往来座」は、いままでに数回、TV番組などのロケで使用されたことがあった。
「しかし、それらとは、スケールがちがいました。大型バスと機材運搬車で、こんな小さな店に、全部で40人くらいのひとたちがやってきました。車両は、すぐにどこかの駐車場に移動したようです。人員配置は、店内に10人ほど、外に30人ほどでしょうか。もちろん、外部の通行人には迷惑をかけないように、ちゃんと交通整理専門のスタッフが表に立ち、近隣のマンションにも事前にあいさつと説明をしてくれていました。少年(齋藤潤)が売りにくる本も事前に選ばれていて、むこうが用意したほかに、当店在庫の“絶版SF”も使用されました。それらすべて、事前に版元に連絡して、映してもよいか許諾を得ていたようです。さすがはフジテレビ制作の大作映画だと、感心してしまいました」
なお、画面中の店員は瀬戸さんではなく、プロの役者さんである。ところで、肝心の本広克行監督の姿は、どうだったのだろうか。
「監督がいらっしゃるかどうかは、わかりませんでした。というのも、当店の横の路地に、なんと、テントで即席ブースがつくられたんです。監督は、そのなかで、モニターを見ながら、指示を出していたのかもしれません。たったあれだけのシーンのために、テント・ブースを設置するのにも驚きました」
朝7時からはじまった撮影は、11時半には終わった。撤収もあっという間だった。大量の機材が持ち込まれたにもかかわらず、店内にはキズひとつなく、配置もすべてもどされていた。瀬戸さんがやることは、シャッターを下ろすことだけだった。いうまでもないが、室井慎次(柳葉敏郎)も、青島俊作(織田裕二)も、「古書往来座」には、来てくれなかった。しかし、瀬戸さんは、
「こんなに気持ちのよいひとたちに使ってもらえて、うれしくなりました。思わず、帰っていく一行に向かって『映画の成功を祈っています』と、頭を下げていました」
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