メディアの「偏向報道」はなぜ起きるのか…ネットニュース編集者が明かす「マスコミ」こそが陥る「罠」

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おいしいネタ

 この時ネットでは「岡ちゃんごめんね」と書くムーブメントが誕生した。ジーコ氏のファンタジスタ中心のラインナップとは異なり、ガチガチに守備を固める岡田氏の布陣が見事に機能し、初戦の勝利をもたらしたのだ。メディアはこの勝利まで岡田氏に対して懐疑的だったが一気に手のひら返しをし、岡田氏を「名将」扱いした。結局岡田JAPANは決勝トーナメントに進出する。

 この手の「メディアによる一方向の礼賛・批判」はいくらでもあるが、大いなるインパクトを与えたのは「STAP細胞はありまーす」の小保方晴子氏ではなかろうか。割烹着を着て、人類の命を救うであろうSTAP細胞を発見した研究者、そして「リケ女の星」としてテレビは絶賛した。

 その後、論文が杜撰な捏造だらけだったことが明らかになったりしたため、論文は取り下げられたが、彼女が登場した初期、テレビは散々彼女を持て囃した。それは「理系の若い女性が頑張っている」という「おいしいネタ」だったからだろう。

 私自身もメディアの人間だから分かるが、「オッサンが新しい科学的発見をした」よりも「若い、そして容姿の整った女性が新しい科学的発見をした」方が圧倒的に社内で企画が通る可能性が高まるのだ。

論文があればとりあえず信じる

 小保方氏についてはまさにソレである。しかも、メディア人に多い早稲田大学出身の人間であったため、当時、メディアは小保方氏に熱狂した。あの件は2014年の話だが、あれから10年。2024年の今、STAP細胞の存在は認められていない。

 この反省をメディアは活かすべきであるのだが、基本的に「ネット情報はフェイクが多い」という開き直りをするだけだ。こうした状況がなぜ起こるかといえば、メディアの基本的な考え方にある。

【1】リベラルな考え方こそ至高【2】保守派の主張を紹介するのは反社会的行為【3】新しく、夢があるものは論文という権威あるものが存在していればとりあえずは信じる――こうした姿勢から、偏向報道が生まれるのだ。

 そういったこともあり、アジェンダを決めたもの以外を述べる人は「陰謀論者」「デマ屋」のレッテルを貼り糾弾する。我々の方がよっぽど「デマ屋」では? と思い、提言する人間が内部で増えない限り、大手マスメディアの偏った報道は終わらないだろう。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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