史上最多6人指名の富士大、15年連続の明大… ドラフトでプロから“求められる”理由とは
「おにいちゃんみたいなホームランを打ちたかったら、ご飯をたくさん食べな」
プロ野球から求められる人材を、伝統的に数多く“産出”しているチームがある。今年10月24日に行われたプロ野球ドラフト会議で、岩手県花巻市の富士大学からはオリックス1位の麦谷祐介外野手をはじめ、史上最多タイの6人(支配下4人、育成2人)が指名された。明治大学は15年連続で指名選手を輩出し、史上最長記録を更新。青山学院大学からは2年連続で複数(2人ずつ)の1位指名選手が生まれた。
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「(上記の)3校に共通するのは、スカウティングが優れていること。専門のスカウトを抱えている大学もありますが、監督が自ら全国の高校野球の試合、練習に足を運び、これぞという選手に直接声をかけるケースが多い。その方が選手もうれしいですし、信頼して4年間お世話になろうという気持ちになりますから」(パ・リーグ球団スカウト)
たとえば、オリックス1位の富士大学・麦谷は宮城県仙台市出身で、いったん県外の群馬・健大高崎高に進むも、なじめずに1年時に退学し、地元宮城の大崎中央高に転校した経緯がある。高校時代を通して目立った実績はなかったが、富士大学の安田慎太郎監督が練習をひと目見てほれ込んだ。麦谷は「安田監督に声をかけていただいて、ここまで育てていただいた。これから恩返ししていきたいです」と感慨深げだ。
富士大学はこれまでにも、ソフトバンク・山川穂高内野手、西武・外崎修汰内野手、侍ジャパンに名を連ねた楽天・鈴木翔天投手、今季プロ2年目で7勝を挙げた日本ハム・金村尚真投手ら、数多くの一流選手を輩出してきた。
「元監督の青木久典さん(元・法政大学監督)、前監督の豊田圭史さん(現・武相高校監督)の頃からスカウティングは積極的でした。沖縄・中部商業高校出身のソフトバンク・山川の場合、青木さんが沖縄まで足を運び、観戦した試合の終了後、山川が野球少年たちに『おにいちゃんみたいなホームランを打ちたかったら、好き嫌いをせずに、ご飯をたくさん食べな』と声を掛けながらサインをしている姿を見て、『こういう人柄の選手となら、一緒に野球をやりたい』とほれ込んだそうです」(大学野球関係者)
元セールスマンの明大監督、高校野球のスタンドに足繁く通う青学大監督
明治大学からは今年のドラフトの目玉といわれていた宗山塁内野手が楽天1位、浅利太門投手が日本ハム3位で指名され、史上最長の指名選手輩出を「15年連続」に更新した。
「田中武宏監督は今年限りで勇退となりましたが、2011年からコーチ、2020年から監督を務め、計14年間もチーム強化に関わりました。2022年の春から3季連続優勝するなど、実績も抜群。強さの秘訣はやはり、スカウティング力でしょう。田中監督は現役時代に明大、日産自動車で外野手としてプレーし、引退後は自動車のセールスマンをしていただけに、フットワークが軽い。宗山の母校である広島・広陵高校など、全国の強豪校に足を運び、太いパイプを築いています。ウチに入るにはある程度、学業の評定点も必要ですが、最近は高校の監督さんの方がその基準を頭に入れてくださっていて、『こういう選手がいるのですが、いかがでしょう』と連絡を下さることもあるほど。高校通算140本塁打を放ち、岩手・花巻東高校から米国のスタンフォード大学に留学した佐々木麟太郎内野手も、最後までウチとの二者択一に悩んだと聞いています」(明大野球部OB)
そして青山学院大学は、昨年のドラフト会議で、常廣羽也斗投手が広島1位、下村海翔投手が阪神の1位で指名された。今年も、西川史礁外野手がオリックスとの競合の末にロッテ1位、佐々木泰内野手が広島1位で指名された。2年連続で複数の1位指名選手を輩出したのは、史上初の快挙だ。
前出のパ・リーグ球団スカウトは、
「われわれが高校の大会を回っていて、スタンドで最も頻繁に顔を合わせる大学関係者は、青学の安藤寧則監督です。必ず自分の足を使い、自分の目で選手を発掘することを身上にされているそうで、頭が下がります。高校球児について、われわれも情報交換をさせていただくことがあります」
と証言する。
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