「アマゾンが親分、出店者は奴隷」 衆人環視のなか、創業者ジェフ・ベゾス氏にアマゾン出店者が直訴したこと
出店者の身を削る低価格競争
「アマゾンマーケットプレイス」出品者に販売価格の引き下げなどを強要しているとして、公正取引委員会は11月26日、「アマゾンジャパン」に独占禁止法違反容疑で立ち入り検査に入った。
「楽天」や「ヤフー」など、競合する通販サイトよりも安く出品するよう圧力をかけていたとみられる。また公正取引委員会は米アマゾンについても調査する方針という。
だがアメリカでも、アマゾンと「マーケットプレイス」出店者の力関係はまるで同じ構造になっているのだ。日米で取材を重ねてきた読売新聞経済部記者による『国家は巨大ITに勝てるのか』(小林泰明)から、抜粋して紹介する。
「カートボックス」に表示されるかどうか
数あるネット通販モールの中で、アマゾンの低価格競争は最も過酷と言われる。
日本のネット通販関係者によると、アマゾンの商品画面は、同じ商品を出す出店者の価格情報が1ページに集められ、縦長で一覧できる特徴がある。その際、表示される順番は、出店者の価格や配送の速さなどをアマゾンが評価して決め、最上位の評価を受けた出店者が利用者の「カートボックス」に表示される。
利用者は表示されたものをそのまま買いやすい。そのため、出店者はカートボックスの獲得を巡って激烈な競争を繰り広げる。出店者によると、この競争には「限界ぎりぎりまで値段を下げ、利益を落とさないと勝てない」ため、低価格に設定せざるを得ない。
米議会の調査によると、アマゾンは競合他社のサイトを定期的に調べ、アマゾンの価格が競合サイトより大幅に高い場合、出店者に値下げ圧力をかけているという。常に最低価格をつけられるような「自動価格設定ツール」の利用も勧めているといい、米出店者団体からは「アマゾンは出店者が設定する価格の上限と下限をコントロールし、最終的な価格決定権をもつ」との声も上がる。
カートボックスを取るには低価格だけでも十分ではない。配送が遅いと上位に表示されないため、手数料を払い、アマゾンの物流サービスを利用する出店者が多い。
そうした条件をクリアしても、さらに難関が待ち受ける。出店者は商品によってはアマゾン本体とも競合する。巨大な購買力をもつアマゾンは商品を安く仕入れることができるため、「その商品を作っているメーカー以外、アマゾンに勝つのは無理」(出店者)という。
消費者にはうれしい低価格は、出店者たちが身を削って絞り出しているのだ。
アマゾン帝国の「いじめ」
アマゾンが急速に規模を拡大できたのは、消費者と出店者が同時並行で増えていくその仕組みにある。消費者が集まれば、集客を目当てにした出店者が増える。出店者が集まれば、品ぞろえが豊富になり、また消費者が集まる。こうして拡大したアマゾン帝国で問題になっているのが、出店者や商品を納入する取引先に対するアマゾンの「いじめ」だ。
2022年秋、カリフォルニア州の司法当局は、競争法違反でアマゾンを提訴した。訴状には、出店者がアマゾンからどんな要求をされているかが詳細に記されている。
訴状によると、アマゾンは、競合他社の価格を監視し、他社が価格を下げればアマゾンも下げる、という価格戦略を採用。出店者に「自動価格変更サービス」を使うよう促し、アマゾン以外のネット通販サイトが提示する最低価格に常に一致するようにしているという。従わない出店者には、カートボックスから外すといったペナルティーが科される。カリフォルニア当局は、これが他の通販サイトが安い価格を提供することを妨げていると問題視した。
日本の出店者も苦しんでいる状況は同じだ。ある出店者はこう言い切った。
「アマゾンは表向き『出店者のため』とか言うが、実際は向こうが親分、出店者は奴隷みたいなもの」
創業者ベゾスvsアマゾン出店者
2020年7月、GAFAの4トップがそろって出席したアメリカ議会公聴会。議員の最大の標的は、初めての議会証言となるアマゾン創業者、ジェフ・ベゾスだった。ベゾスは冒頭、自らの生い立ちや苦労話に触れつつ、アマゾンの正しさを力説した。
質問の順番が回ってきた女性議員が語り始めた。
「私たちは多くの中小企業に話を聞きましたが、彼らはアマゾンとの関係をいじめ、恐怖、パニックといった言葉で表現していました」
「ここで、妻であり母でもある中小企業の経営者の話を紹介し、この問題が実際に人々の生活にどのような影響を与えているのか、理解していただきたいと思います」
その直後、弱々しい女性の声が流れ始めた。異変が起きていると感じ、取材していた私は思わず身を乗り出した。
「私たちは、アマゾンのトップの本の売り手で、昼夜を問わず懸命にビジネスを成長させ、評価を維持してきました。このビジネスで3人の子どもと、90歳のおばあちゃんを含む、14人を養っています」
「私たちが成長するにつれ、教科書分野のアマゾンのシェアは縮小していきました。その報復として、アマゾンは私たちの販売を制限し始めました。半年で教科書分野の全商品の販売を組織的にブロックされました。私たちはこの10か月、1冊も売れていません」
「アマゾンは、なぜ私たちが制限されているのか、その理由を通知してくれませんでした。何の警告もありませんでした」
「これは出店者の肉声だ!」。私は内心、そう叫んだ。
画面を見ると、ベゾスの顔色は明らかに変わっていた。議員によれば、この出店者は1年間に500を超えるメッセージをアマゾンに送ったが、意味のある回答は一つもなかったという。議員が質す。
「あなたがパートナーだという人たちを、このように扱うことが許されるのでしょうか」。
ベゾスは神妙な顔で答える。
「私には、彼女に対する接し方が正しいとは全く思えません。驚きました。これは……私たちのあり方ではないと断言できます」
動揺気味のベゾスは、ときに議員の呼びかけを無視し、早口で話し続けた。
「私は理解できないのですが、もっと理解したい。あなたの許可があれば……」
「これは許されないことです。私たちが中小企業の声に耳を傾けていないとしたら、それは全く嬉しくありません。これは組織的に起こっていることだとは思えません」
両手を広げ、「それはアマゾンのやり方ではない」と訴え続けるベゾスに向かい、議員は最後に再び、出店者の女性の声を流した。
「ベゾスさん、私たちはこの3年でアマゾンでの売上を5倍にしました。それだけ販売手数料でアマゾンに貢献してきました。あなたが決めた全てのルールに従いました」
「私たちが生計を立てられるように、どうか助けてください。14人の命がかかっています。どうか、どうか、どうか私たちが元通りになるように助けてください」
今にも泣き出しそうな声だった。
衆人環視の中で「王様」に必死に赦しを請う光景は、アマゾンと取引先の関係を如実に表していた。このとき、私は日本で聞いていた取引先に対するアマゾンの「悪行」の数々を思い出していた。米国でも、同じことをしている。そして、ベゾスの動揺ぶりを見るに、トップはそれに気付いていないのだ。
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アメリカでも、日本でも、圧倒的なネット通販の覇者が引き起こしている力関係の問題。公正取引員会による立ち入り検査で、何が明らかになるだろうか。