なぜ「交通事故は判決が甘い」と批判されるのか 時速194キロの死亡事故、飲酒追突で3歳と2歳の少女2人が焼死……悪質なドライバーを「殺人罪」で起訴できない理由

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故意犯と過失犯

 ここで東名高速飲酒運転について振り返っておこう。東京都内の東名高速道路東京インターチェンジ付近で、乗用車に12トントラックが追突。乗用車は大破炎上し、運転していた会社員男性が大やけどを負ったほか、3歳と2歳の女児2人が焼死した。

 トラックの運転手は飲酒運転の常習者で、この日もカーフェリーや東名高速などでウイスキー750ミリリットル1本や缶チューハイなどを飲んでいた。運転手は業務上過失致死罪で起訴され、東京地裁は懲役4年の判決を下した。検察は懲役4年では納得できないと異例の控訴に踏み切ったが、東京高裁が棄却して懲役4年の判決が確定した。

「法律には故意犯と過失犯という考えがあります。11月に中国の広東省で暴走車が人をはねて35人が死亡しました。同じ犯罪が日本で起きれば、殺意は明確ですから故意犯に該当します。危険運転致死罪など交通事故を裁く法律は適用されず、殺人罪で捜査、起訴される可能性が高いでしょう。一方、運転中に不注意で歩行者をはねて死に至らしめ、怖くなって逃げた被告は最初から『車で人をひき殺してやろう』と計画していたわけではないため過失犯となります。そして法律は基本的に故意犯の法定刑は重く、過失犯は軽く定められているのです」(同・田中弁護士)

危険運転致死傷罪の問題点

 例えば傷害罪は故意犯で、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められている。一方、過失傷害罪は過失犯で、30万円以下の罰金または科料(1000円以上1万円未満の罰金)が科せられる──という具合だ。

「悪質な交通事故でも、基本的には過失犯であることを前提に厳罰化の法改正を積み重ねてきました。その際、中でも特別に悪質な事故を危険運転致死傷罪という法律で裁くよう改正したわけですが、やはり交通事故は事案ごとに千差万別で、一般化が難しいという特徴があります。現場の検事にとって危険運転致死傷罪は扱いが難しい法律なのは間違いありませんし、実際、適用を巡ってこれまでに何度も議論が行われてきました。こうなると『この交通事故は特別に悪質です』と選び出し、危険運転致死傷罪という特別の法律で裁くという考え自体に無理があると言えるのではないでしょうか」(同・田中弁護士)

 法務省では危険運転致死傷罪の検討が始まっており、現時点では飲酒運転でアルコール濃度の数値基準や、速度オーパーのスピード基準を設けるといった案が検討されている。しかしながら田中弁護士は「危険運転致死傷罪の改正を考えるより、過失運転致死罪の『7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金』を引き上げるほうが、はるかに現実的だと考えます」と指摘する。

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