「時速194キロ」で死亡事故も“危険運転”ではないのか…被告側は「最高速度250キロの高級スポーツカーなので制御困難ではなかった」と主張

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専門家は「危険運転致死罪は無理」と解説

 時速194キロでBMWを運転していたにもかかわらず、なぜ大分地検は過失運転致死罪による起訴に変更したのか。この“当然の疑問”に新聞社も答えようとした。読売新聞は危険運転致死傷罪の創設に関わった中央大法科大学院の教授を取材。教授は「立法趣旨や判例からも、高速度だからといって危険運転の適用はできず、訴因変更は難しい」との見解を示した(註1)。

 毎日新聞は東京都立大学の刑事法を専門とする教授に取材。教授は危険運転致死傷罪の類型に「制御困難な高速度」とあることが重要だと指摘。教授によると「制御困難な高速度」は「スピードの出し過ぎで車がコントロールできない状態」と解釈すべきだという。

 ところが事故を起こした車はドイツ製のBMWだった。ドイツの高速道路・アウトバーンは最高速度が無制限の区間が多いことで知られている。こうした点から教授は「194キロでもコントロールを失った状態だとは言えない」とし、危険運転致死罪の適用は困難だと結論づけた(註2)。

 一般人には理解できない、あまりにも専門的で常識とは乖離した議論と首をひねる向きも少なくないだろう。だが裁判でも、この問題は争点となった。今年11月に開かれた第3回公判では検察側証人としてプロドライバーが出廷。190キロでサーキット場を運転した走行実験の結果として「速すぎると制御は困難になる」と証言した。

公開された元少年の氏名

 一方の弁護側は事故を起こしたBMWの最高速度は250キロであり、190キロでも制御不能にはならないと反論。さらに元少年は第5回の公判でBMWを「以前乗っていた国産車と比べて、速度が高くても普通に走っている感覚だった」と証言した。

 話を元に戻せば、遺族の呼びかけに応じて集まった署名は2万筆を超えた。遺族は福岡高検や最高検察庁にも上申書を提出。そして必死の訴えは届いた。2022年12月、大分地検は危険運転致死罪への訴因変更が大分地裁に認められたと発表した。さらに元少年の実名も公表され、産経新聞など一部メディアが伝えた。ただし氏名に関しては現在でも元少年と匿名で報じている報道機関が圧倒的に多い。

 今年11月5日、大分地裁で裁判員裁判による初公判が開かれ、元少年は起訴内容について「よく分かりません」と述べた。死亡した小柳さんと遺族に謝罪した上で、弁護側が「危険運転致死の罪には当たらず成立するのは過失運転致死だ」と主張した。

 そして上記のような「194キロは制御困難なスピードか否か」という議論を経て、11月16日に検察側は危険運転致死罪が認められたなら懲役12年、認められなかった場合の予備的訴因として過失運転致死罪なら懲役5年を求刑して結審した。

 第2回【なぜ「交通事故は判決が甘い」と批判されるのか 時速194キロの死亡事故、飲酒追突で3歳と2歳の少女2人が焼死……悪質なドライバーを「殺人罪」で起訴できない理由】では、危険運転致死傷罪の問題点や、ウィスキーを1本飲み干して飲酒運転を行い、3歳と2歳の少女を焼死させた「東名高速飲酒運転事故」など、極めて悪質な交通事故がなぜ殺人罪で起訴されないのか、などについてお伝えする──。

註1:「危険運転致死で起訴を」 大分・死亡事故 遺族ら署名活動(読売新聞大分県版・2022年10月9日朝刊)

註2:大分・衝突死亡事故:大分の死亡事故 時速194キロで過失「なぜ」 危険運転適用求め署名2万人(毎日新聞朝刊:2022年10月10日)

デイリー新潮編集部

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