トランプ再臨で“損切り”される韓国… 焦って中国側に走るのか

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尹大統領の微妙な発言

 外交を軌道修正するのか、注目が集まる時に尹錫悦大統領が微妙な発言をしました。11月18日、G20首脳会議出席のため訪問したブラジルで、同国メディアの書面での質問に「韓国にとって米国と中国は二者択一の問題ではない」と回答したのです。

 日本や米国から見れば尹錫悦政権は米中二股ですから、この発言はニュースでも何でもない。ただ、韓国では「尹錫悦政権は米国にオール・インした」ことになっている。朴槿恵(パク・クネ)、文在寅と保守、左派に関係なく、2代続いて「従中」政権だったので、韓国内ではそう見えるのです。

 そこで韓国各紙は尹錫悦政権は親米路線を軌道修正し、中国との関係改善に乗り出すと一斉に報じたのです。興味深いことに保守系紙も「中国傾斜」への修正に好意的でした。

 東亜日報の社説「尹『米中は二者択一ではない』…“超不確実性”に対応するには変化が不可避」(11月20日、韓国語版)のポイントを要約します。

・これまで尹錫悦政権は自由や人権といった理念的な価値を掲げ、韓米同盟と韓米日協力、自由陣営との連帯に集中する鮮明な外交を推進してきた。
・そんな尹大統領が改めて中国と米国を同列に置き関係改善を強調したのだから「価値外交」の基調が変わるかとの解説が出るのも不思議ではない。
・世界秩序を主導する米国の政権交代を前に情勢が急変している。トランプ第2期政権は2つの戦争の早期終結、米中競争の激化、朝米直取引を予告している。
・このような超不確実性を前に対外政策も調整が避けられない。一方にだけ没頭したがために、無視あるいは白眼視してきたもう一方を見直すのは当然のことだ。

保守系紙も「中国傾斜」を支持

 中央日報も社説「尹大統領『米中は選択の問題でない』…実用外交を生かすべき」(11月20日、日本語版)で「米国一辺倒外交」の修正を支持しました。ポイントを引用します。

・米国優先主義、孤立主義、関税戦争を予告したトランプ政権2期目を控えて国際情勢が揺れ動く中、韓国と中国にも相当な波紋が押し寄せてくるはずだ。
・韓国は中国と競争しながらも、北核問題などの安全保障と半導体などの経済分野で相互協力する分野が多い。こうした状況で尹大統領が価値と理念よりも実利と実用を重視する方向に外交基調を調整、管理すればプラスの効果が期待される。

 なお、保守本流を自任する朝鮮日報は11月26日に至るまで「二者択一ではない」発言に関する社説は掲載していません。

――保守も中国回帰に賛成なのですね。

鈴置:それが韓国の本質なのです。日本と決定的に異なるのは、韓国人は中国と戦おうとしないことです。21世紀に入った頃、親しい韓国の知識人に「なぜ、中国の言いなりになるのか」と聞いてみたことがあります。答えは「日本と異なり、中国との戦争で勝ったことがないから」でした。

底の浅い民主主義が生む外交迷走

――歴史的な経緯はともかく、今や韓国は民主主義国家です。

鈴置:いい質問です。多くの日本人がそこに首を傾げます。最近では米国人や欧州の人々からも聞かれます。「韓国人はなぜ、権威主義的な体制に引き寄せられるのか。民主化したのではないのか」と。

――そこが不思議です。

鈴置:私の答は簡単です。「韓国に民主主義は根付いていないから」です。確かに1987年、韓国は形の上では民主化しました。言論の自由は保障され、大統領は5年の任期が終われば退陣します。「日本以上に民主主義が発達した国」と多くの韓国人は信じています。

 でも、いざとなると「地」が出ます。ロシアがウクライナを侵攻した際、米国が叱りつけるまで対ロ経済制裁に韓国は加わろうとしませんでした。

 即座に対ロ制裁に参加したうえ、ウクライナからの避難民を受け入れた日本を見て、韓国メディアの東京特派員は一斉に「日本には何らかの下心がある」とも書きました。

 彼らは「直接的に得になることがない限り、権威主義国家に侵略された民主主義国家を助ける必要はない」と考えていることを無意識のうちに告白してしまったのです。

 韓国の民主主義は底が浅く、外交にも大いに影響します。この問題は『韓国消滅』第2章と第3章でじっくりと掘り下げています。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国消滅』『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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