トランプ再臨で“損切り”される韓国… 焦って中国側に走るのか
2期目に在韓米軍を全面撤収
韓国は戦略的な状況の悪化に直面しています。そんな時に「ウクライナでの戦争を直ちに終わらせる」と公約したトランプ氏が当選したのです。
もし、何らかの形でウクライナ戦争が終息すれば、韓国は悲惨な状況に陥ります。ロシアは砲弾を供与した韓国への恨みを持ち続ける。北朝鮮はロシアとの軍事同盟を得たまま。韓国は1990年の韓ソ国交正常化により勝ちとった戦略的な優位を一気に失います。朝鮮半島での冷戦の復活です。
冷戦期の米国は韓国を全面的にバックアップしてくれましたが「トランプの米国」は同盟国に冷たい。ことに韓国は粗略に扱われる可能性が高い。第1期政権の末期、防衛分担費を出し渋る韓国に怒ったトランプ大統領は「2期目になったら真っ先にすべての在韓米軍を撤収する」と語っています。
詳しくは「『ハマス奇襲』を見て韓国が慌てだした 『融和策が“北朝鮮奇襲”を呼ぶ』VS『“力による平和”こそ危険』の対立」をご覧ください。
中国との関係も悪化する可能性が高い。トランプ氏は「中国製品の関税は60%に引き上げる」などと、第2期政権は中国にはより強い姿勢をとると表明しています。韓国がそれに逆らうことは難しい。ハンギョレの社説が「四面楚歌に陥る」と悲鳴をあげたのも当然です。
韓国は蚊帳の外に
――トランプ氏は1期目と同様に、北朝鮮との対話に乗り出すのでしょうか?
鈴置:それは分かりません。1期目がスタートした時は北朝鮮の核・ミサイル開発が米国にとって最大かつ緊急の課題でした。しかし2期目を目前にした今は、ウクライナと中東で戦争が起きていて、北朝鮮の核問題は優先順位が低い。ノーベル平和賞が欲しいトランプ氏は、まずはウクライナで手柄を挙げようとするでしょう。
ただ、米朝対話再開の可能性が無くなったわけではありません。金正恩総書記も対話を期待するかの発言をし始めています。それに足並みをそろえ、韓国の左派も「トランプ政権が北との対話を進めたら、我が国は孤立する」と尹錫悦政権を攻撃し始めました。11月13日、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が主張しました。
ハンギョレはそれを受け、社説「『第2次トランプ政権』朝米対話に備え、韓国は対北朝鮮政策を全面修正すべき」(11月14日、日本語版)を載せました。骨子は以下です。
・尹錫悦政権はこの2年半の間、相手の立場をまったく考慮しない「吸収統一」構想を掲げ、「対北朝鮮ビラ・ごみ風船事態」への対応に失敗し、南北関係を破綻へと導いた。
・このような状況の中でトランプ前大統領が改めて朝米対話をはじめれば、朝鮮半島の運命を決める重要な意思決定過程から韓国のみが排除される可能性がある。尹錫悦大統領は今からでも外交・安保ラインを全面刷新するとともに、北朝鮮との直接対話が可能な環境を作るために最善を尽くすべきだ。
米朝結託を防いだ安倍首相
「韓国蚊帳の外」論です。米朝対話の中で北朝鮮は米国に届くICBM(大陸間弾道弾)だけは持たないと約束し、短距離ミサイルと核弾頭の保有は認めろ――と言い出す可能性が大です。トランプ次期政権はこれを認めたうえ、韓国や日本に対し「米国の核の傘を提供し続けるから我慢しろ」と言い出しかねない。
北がICBMを持たない以上、米国はワシントンやニューヨークへの核報復攻撃を恐れずに済むので核の傘は劣化しない――との理屈です。ハンギョレ社説も、このリスクを訴えています。
・韓国が対話から外れることになれば「朝鮮半島の非核化」という目標は消え去り、北朝鮮の核を認めた状態で米国を脅かす大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけを除去するという、容認しがたい妥協がなされる可能性もある。
1期目政権の米朝対話でもこのリスクがありました。ただ、この時はトランプ大統領と世界でもっとも深い信頼関係を結んだ安倍晋三首相が健在でした。北朝鮮に安易な妥協をしないよう、トランプ大統領にクギを刺していました。
でも、今や日本の首相は「中国も参加するアジア版NATO」が持論の石破茂氏です(「『韓国が納得するまで謝る』イシバは“第2のハトヤマ政権”だ… 尹錫悦が期待する根拠」)。トランプ次期大統領が「第2のハトヤマ」の言うことに耳を傾けるはずがありません。
――安倍首相が活躍した時、韓国はどう動いたのですか?
鈴置:当時の韓国は反米親北の文在寅政権。トランプ大統領から嫌われていて、仮にその意図があっても米国に対し完全な非核化を要求できなかったでしょう。
韓国メディアは「米朝首脳会談は文在寅政権が仕切った」と自らの外交力を誇っていました。しかし実際は、韓国は北朝鮮の使い走りに過ぎず、トランプ政権もそう見切っていました。
2019年6月30日に板門店で3回目の米朝首脳会談が開かれた際、韓国の参加を米国は阻止しました。米朝両首脳の会談に割り込もうとした文在寅大統領の鼻先で、米警備陣は文字通りドアをぴしゃりと閉めたのです。
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