トランプ再臨で“損切り”される韓国… 焦って中国側に走るのか
トランプ(Donald Trump)政権の復活で韓国は大騒ぎだ。米国はロシアや北朝鮮との関係改善に動く一方、中国との対決姿勢を鮮明にするからだ。対ロ・対北強硬策と米中二股を外交の基軸に据えてきた韓国は困惑するほかない。韓国観察者の鈴置高史氏は「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は結局、中国側ににじり寄る」と読む。
四面楚歌に陥る韓国
鈴置:左派系紙、ハンギョレが「トランプ政権の再登場を機に、対外政策を全面的に見直せ」と尹錫悦政権に迫っています。
トランプ当選が明らかになると、ただちに社説「トランプ再選、韓国も国益のため『柔軟な外交』に方向転換を」(11月7日、日本語版)を掲げ、以下のように主張しました。
・米国の対外政策も、価値観を共有する同盟国を糾合して中国とロシアに対抗するという「価値観外交」から、自国の利益を排他的に掲げる「一方主義外交」へと修正される可能性が高まった。韓国政府も「トランプリスク」を最小化するために、コミュニケーションを強化しつつも、「価値観」より「国益」を前面に掲げる柔軟な外交への方向転換を模索すべきだ。
・韓国は今、バイデン政権と歩調を合わせて推進してきた「価値観外交」で大きな外交的苦境に陥っている。南北関係は事実上「敵対的な二つの国家」へと変質し、冷戦終結から30数年ぶりに朝ロの戦略的接近を許した。(中略)朝鮮半島の戦争リスクはいつにも増して高まっている。
・このような危機の中、来年1月20日に任期がはじまる第2期トランプ政権までもが自国の国益ばかりを前面に押し出し、度を越した圧力を加えてきたら、韓国は「四面楚歌」の危機に陥ることになる。ウクライナに殺傷兵器を提供しうるとしてロシアと対決し、中国との対立を続けることは、何の国益にもならない。
北への空爆は困難に
ロシアのウクライナ侵略の後、韓ロ関係は急速に悪化しました。韓国は米国の求めに応じて155ミリ砲弾をウクライナに供給したため、ロシアを激怒させました。供与は米国経由の形をとりましたが、韓国製砲弾を撃ち込まれるロシアにとっては同じこと。韓国に対し激しい言葉で警告を繰り返しています。
ロシアの外貨準備凍結など経済制裁に加わった日本も「ロシアとの敵対」は同様ですが、韓国の危機感は比べようもなく大きい。安全保障上のリスクが急速に高まったのです。
ロシアと北朝鮮は軍事同盟を結び、北の兵士1万人強がウクライナとの戦争に参加しました。見返りに北はロシアから食糧支援を受けています。韓国の専門家はドローン攻撃など最新鋭の軍事技術・戦術の移転も警戒しています。もっとも懸念すべきは戦略バランスの変化です。
北朝鮮の核問題解決に向け、米国には奥の手がありました。米空軍機による北の核関連施設の破壊です。もちろん、同時に金正恩(キム・ジョンウン)総書記を空爆で暗殺し体制も倒します。
ところが、ロ朝同盟の締結により米国は空爆に躊躇せざるを得なくなりました。ロシアの参戦・反撃を考慮する必要が出てきたからです。
――空爆なんて簡単にできるのでしょうか。
鈴置:「いざとなれば空爆できる」ことが重要なのです。トランプ政権1期目では「空爆するぞ」と脅し、金正恩総書記を対話に引き出した経緯があります。対話実現のためにも「空爆カード」が武器になるのです。ロシアとの軍事同盟を結んだ北朝鮮は強気になり、今後は対話に応じても簡単に譲歩しないでしょう。
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