親の介護は妻に丸投げ、自分は絶賛不倫中… 「向き合うべきですか?」44歳夫の身勝手さ
関係をもって半年して…
月に2、3度、智恵さんと会った。外でデートすることもあったし、彼女がひとり暮らしの部屋に招いてくれることもあった。智恵さんは仕事には非常に積極的で、何もかも貪欲に吸収したがるタイプだったから、話していても刺激があった。しかも料理が抜群にうまかった。
「彼女の父親は料理人なんだそう。家でも家族に料理をふるまってくれたそうです。仲のいい両親にしっかり愛されて育った人なんですね。だから素直で明るい。彼女を知れば知るほど、そのまっすぐな性格に惹かれました」
自分が結婚していることで彼女に寂しい思いをさせたくないと恭幸さんは思うようになった。だからいつでも連絡していいと言っていたが、彼女からわがままを言い出すことはなかった。それがますます彼の気持ちを彼女に向けさせた。
そんな生活が半年ほど続いたころ、智恵さんに会ってから帰宅すると娘がひとりで留守番をしていた。
「どうしたのと聞くと、おじいちゃんが倒れて病院に運ばれたと。そういえば帰り道で携帯を見たら妻から連絡があったのを思い出しました。おとうさんに電話がつながらないっておかあさんが言ってたと聞いて、あわてて妻に電話をすると、父は脳梗塞らしい、命に別状はない、詳しい検査は明日になるが、このまま入院すると言うんです。その後、妻と母は帰宅しましたが、ふたりともぐったり疲れていましたね。母は『美和さんが一緒にいてくれて本当によかった』と涙ぐみ、美和はそんな母の背中を撫でていました。いつからふたりが仲よくなったのかわかりませんでしたが、僕が入り込む余地がない感じだった」
いつの間にか階下の風呂に入るようになった妻
その後、父は入院治療の上、リハビリ病院に転院、数ヶ月後にようやく自宅に戻ったが、今度は家での介護が始まってしまった。ヘルパーさんにも来てもらっているが、母の疲労がひどくなり、美和さんは仕事を辞めざるを得なくなった。
「僕も父を看るから、仕事は続けたほうがいいと言ったんですが、『あなたはあてにならない』と美和に言われました。確かにそうだけど、自分の親のために妻が仕事を辞めるのはどうしても違和感があったんです。僕の都合や人生に妻を巻き込んでいるのはわかっていた。これ以上はもういいという気持ちでした」
だが美和さんは仕事を辞め、近所の飲食店で週に3回、パートをしながら父を介護し、母を元気づけている。
「なんというのか、美和は環境への順応性がものすごく高いんですよね。最初は階下のお風呂に入るのを嫌がっていたけど、いつの間にか入るようになっていたし、両親とも距離を置いていたはずが、いつしか仲よくなっていたし。たぶん、仕事を始めてから母が協力し、美和がそれに感謝して母にプレゼントしたりするようになったんだと思う。母は父からの抑圧には慣れていたけど、自分を気遣ってくれる人に初めて会えて心開いたんでしょう。ふたりが仲よくしてくれるのは僕には好都合でもあった。ずるい言い方だけど」
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