生活に困って両親と二世帯同居も「妻が浴槽に入りたがらない」 44歳夫の崩れゆく家庭

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妻に黙ってリフォーム計画を進める

 恥ずかしい話だけど、と恭幸さんは前置きしてこう言った。

「家賃さえ払わなくてすむなら、生活はかなり楽になる。それだけで僕はその話に飛びつきました。妻には相談もせず、ぜひぜひと言ったんです。すぐに二世帯住宅にリフォームするからと返事が来てから2ヶ月ほどでしたね、完成したって。そこで妻にようやく話をしたんです」

 妻はずっと仏頂面で聞いていた。どうして相談してくれなかったのということだ。それはそうだろう。だが恭幸さんは「今は手段を選ばず、娘のためにもきちんと生活していくのが優先だ」と譲らなかった。これを受け入れてくれないなら離婚も辞さないとまで言った。美和さんは追いつめられたような顔をして「わかった」とつぶやいた。

 実家が数年前に改築されたという話は、ときどき連絡をとっていた妹から聞いたが、下見に行ったとき、両親は彼か妹のどちらかと一緒に住むつもりで二世帯住宅にしたのだろうとわかった。彼との同居のためにリフォームしたのは内装だけで、もともと二世帯仕様にできていたのだ。

「騙されたかと一瞬、思ったけど、母親は『人に貸すつもりでいたから、あなたが入ってくれるならよかった』と穏やかに言うんです。父は多くは語らなかったものの、孫が来ることに関しては楽しみにしてると独り言みたいにつぶやいていました。あの時点で、僕は2階を貸してもらう感覚でいて、“同居”というイメージがなかった。美和と両親がうまくやれるかどうかなんてほとんど考えませんでした。両親もまだ70代初めで元気でしたし」

 それだけ生活に切羽詰まっていたともいえる。

妻はシャワーで我慢

 こうして一家3人は恭幸さんの実家へと越した。初日は母が腕をふるってくれ、階下でみんなで食事をした。娘はあまり口をきかなかったが、祖父母の存在が嫌ではなさそうに見えた。

「2階にもキッチンはあったんですが、お風呂が問題でした。シャワールームしかなかったんです。浴槽があるのは階下。気にせず使ってと言われたから僕は使っていたけど、気づくと美和はどうも階下には行ってない。シャワーだけで我慢していたようです。娘は母と入っていたようですが。美和に我慢を強いるのは心苦しかったから、夜中に入ればいいよと言ったけど、浮かない顔で『うん』と言うだけでした」

 ***

 恭幸さんの独断による“同居”によって、夫婦関係に不穏な空気が。やがて「家に帰りたくない」という思いを抱くようになった彼は、不倫をはじめ……。【後編】でそのてん末を紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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