「教育熱心と虐待は紙一重」 中学受験ブームに潜む「教育虐待」の闇 「勉強ができない息子を父親が刺し殺したケースも」
発見、介入が難しい教育虐待
前提として、勉強が好きな子や理由があって私立や国立への進学を希望する子が、自らの意思で受験勉強をするのは歓迎すべきことだ。ただ、勉強はスポーツと同じで得意不得意があるし、子供によって学力が伸びる時期も違う。適した勉強法も人それぞれだ。親がそこに目を向けず、「やればできる」との決めつけでむちを打てば、子供の心身を傷つけることになる。なぜか勉強の世界でのみ、時代遅れのスポ根やスパルタがまかり通っているのである。
一般的に児童虐待は、「心理的虐待」「身体的虐待」「性的虐待」「育児放棄」の四つに分類される。勉強のことで、親が罵声を浴びせれば心理的虐待、手を上げれば身体的虐待となる。むろん、中学受験に限らず、高校受験、大学受験においても起こりうる。
虐待の対応の中でも、こと教育虐待に関しては発見、介入が非常に難しい。
家の子供部屋という密室で行われているのに加え、親が子供の勉強に熱心なのは「愛情」と子供本人も周りも受け止める風潮があるからだ。
母親も黙認 そして……
例えば16年に、愛知県で起きた教育虐待を原因とする殺人事件がある。
加害者の男性は薬局を経営する家の子供として生まれ、中学受験をして名門校へ進学した経験があった。だが、途中で挫折し、薬局を継ぐことなく、トラック運転手になった。
男性は息子が小学校に上がると、自身が通っていた名門校へ入れるため、自ら勉強を教え出した。父親は問題の解けない息子にいら立ち、怒鳴ったり、テキストを破り捨てたりする中で、だんだんと横暴な言動をエスカレートさせ、殴る、髪を引き抜く、挙句の果てには刃物で足を切るなどして脅すようになった。
これほどまでに家庭内での暴力が悪化していたのに、近隣住人も学校の先生もそのことに気が付かなかったという。母親も夫のわが子への愛情として黙認したらしい。
そして受験の天王山と呼ばれる小6の夏休み、ついに父親は激高した勢いで息子の胸を包丁で刺した。息子は死亡し、父親は逮捕されることとなった。
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