「教育熱心と虐待は紙一重」 中学受験ブームに潜む「教育虐待」の闇 「勉強ができない息子を父親が刺し殺したケースも」

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クラスの大半が中学受験組

 ここ1~2年で、メディアが「教育虐待」について報じることが増えた。親が子供の教育に熱心になり過ぎるあまり、本人の意に反して何時間も勉強部屋に閉じ込める、人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる、身体的な暴力を振るうといった行為のことだ。

 教育虐待が注目を浴びているのは、日本の都市部で起きている「第3次中学受験ブーム」と無縁ではない。首都圏では10年連続で受験率が伸びていて、24年は過去最高の18.12%となった。特に都心で受験率が高く、学校によっては小学6年生のクラスの中で6~8割の子供が中学受験をすることも珍しくなくなっている。

 拙著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』で取材した、都内の公立小学校の校長は話す。

「昔はクラスの勉強の得意な1割くらいの子が中学受験をしていましたが、最近は親が『公立中学は学級崩壊している』『私立でなければグローバル人材に育たない』などと思い込んで、勉強の不得意な子にまで小学3年生くらいから受験勉強をさせることが増えています。そのため、クラスの大半が受験組になって、小6の冬には半数以上が欠席して授業が成り立たなくなるほどです」

「子どものスペックを上げるのが子育て」という価値観

 昔から日本の学歴志向は高かったが、最近の親の間ではそれがより高まっているらしい。

 この校長によれば、今は1世帯あたりの子供の数が減っていることもあり、親が子供を以前よりも過度に管理しようとする傾向にあるという。しかしそれと同時に、共働きなどの多忙さから、遊びや読書まで多くのことを、自分たちで教えるのではなく習い事としてやらせる風潮があるそうだ。

 こうした親の中には、お金をかけて子供の“スペック”(筆者注・能力の意味)を上げるのが「親の役割=子育て」と考える者もいる。そうした親たちが飛びつくのが、分かりやすく点数という成果に表れる勉強であり、社会不安や学校不信も重なって、受験ブームを引き起こしているらしい。

 先の校長は言う。

「5、6年生の教室では、子供たちの話題は受験のことばかりです。休み時間になると、子供たちが塾の名前で人を評価したり、『あの子は塾のクラスが落ちたからもうダメだ』『小6の夏で人生が決まる』などとマウントを取り合う。子供たちは親や塾の先生から言われた言葉や、押し付けられた価値観を学校にも持ち込んでカーストを作るのです」

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