老衰で死亡…池袋暴走事故の「飯塚幸三受刑者」に“上級国民”バッシングが集中した理由 世論を逆なでしてしまった一審での「無罪主張」

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 11月25日、大手メディア各社は「飯塚幸三受刑者(93)が10月26日、関東地方の刑務所で死亡した」ことが関係者などの取材で判明した、と報じた。飯塚受刑者は2019年4月、東京都豊島区東池袋の都道で乗用車のプリウスを運転していたところ、ブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走。横断歩道の通行者などをはねて11人を死傷させた「池袋暴走事故」を引き起こした。死因は老衰だという。

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 飯塚受刑者と言えば「上級国民」との俗語を思い出す人は多いだろう。ただ、彼は最初に上級国民と呼ばれた人間ではない。担当記者が言う。

「上級国民という言葉そのものは、大正時代の学術書にも散見されるそうです。いわゆるネットスラングとして最初に注目されたのは2015年、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレム選定を巡り、著作権侵害が指摘された時でした。問題視された案は最終的に白紙撤回が決まりましたが、その際にオリンピック大会組織委員会が『著作権侵害ではないが一般の国民から理解を得られない』、『一般国民には分かりにくい』など、“一般国民”という言葉を多用したのです。そのため『自分たち一般国民には分からなくとも、上級国民には分かるのか』とネット上で反発を招き、上級国民というネットスラングが急速に流布されたのです」

 2015年の新語・流行語大賞では上級国民がノミネートされている。このような経緯があった上で、池袋暴走事故が発生した。そしてネット上で問題視されたのは飯塚受刑者が最後まで逮捕されなかったことだった。

逮捕されなかった飯塚受刑者

「飯塚受刑者は東京大学工学部を卒業し、元通産官僚幹部で元機械メーカーの副社長、という典型的なエリート。おまけに瑞宝重光章の叙勲者でもあります。事故の際、飯塚受刑者は自身も骨折などのケガを負っていたことから現場で救急搬送されて病院に入院しました。警視庁は『取り調べには耐えられない』と判断、逮捕を見送ってケガの回復を待ったのです。新聞やテレビ局など大手メディアは“容疑者”の呼称が使えないため、旧通産省工業技術院の院長を務めていた経歴から『飯塚元院長』などの表記を使用しました」(同・記者)

 ところが池袋事故の2日後に起きた神戸市営バスが歩行者の列に突っ込み、2人が死亡、4人が負傷した事故ではバスの運転手が逮捕。翌5月に滋賀県大津市で起きた保育園児ら16人が死傷した交通事故でも運転手の女性が逮捕された。

「さらに事故直後、飯塚受刑者が家族と連絡を取っていたことや、そもそもかかりつけ医から車の運転を反対されていたことなどが次々に発覚し、インターネット上では『上級国民だから、警視庁は忖度して逮捕しないのだ』という批判が殺到したのです」(同・記者)

 その後、飯塚受刑者の容体は回復する。だが、事情聴取に応じていたことなどから、警視庁は「逃亡・証拠隠滅のおそれはない」と判断し、あくまでも逮捕は行わなかった。

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