「僕のことを大っ嫌いになるくらい厳しい言葉を言い続けます」 MVP「大谷翔平」を栗山監督が愛情たっぷりに語る
誉めたことがない
〈ここまででわかるように、監督の大谷への評価は極めて高い。まるで子どもの成長に目を細める父親のようである。しかし、相対する場面では、意外にもほとんど誉めたことがないのだという。〉
ほとんどと言うより、一回も誉めたことがないと思います。15年のシーズンも、バッターとしての成績が良くなかった(打率2割2厘、本塁打5本)。だから、「これじゃ2つ出来ねえよ! 何とかしろ!」とはっぱをかけました。「二刀流になんねえんだ」と。
翔平にいつも言っていたのは、「いつも100点取れる奴が90点でした。テストが難しくて他の人が30点でした」という時に、「それでいいのか」「周りは関係ないだろう」ということ。いつも100点取れる奴が10問も間違えて良いのか。「4打数2安打でした」「試合には勝ちました」と言うのであれば、「でもそれ2回アウトになっているだろ。それも打てるはずだよね。そんなんで良かったと言ってる場合じゃないだろ!」と。それは彼が持っている能力への信頼でもありました。翔平は力をまだまだ全部出しきれていないと思うから。それを最大限引き出すのが、我々の仕事でした。
野球と翔平のこと以外は考えなかった5年間
〈大き過ぎる才能を預かったがゆえに、栗山監督は、この5年間に感じたプレッシャーはあまりに重かったと回想する。〉
もし翔平に何かあったら、それは僕が責任を取れる話ではないですからね。僕が監督を辞めて済む問題ではない。何かあったら……と、その感覚、その怖さというのは……言葉で表現できないですね。自分の何倍も人のことを考えた経験はなかったですからね。それはそれで幸せだったと思いますが、野球と翔平のこと以外は考えたことのない5年間でした。ですから、冗談ベースで言えば、今回のメジャー行きでホッとしたところはあります。でも、また新しいの(=清宮幸太郎)が来た……これも命がけで行かなくてはと思っていますけどね。
翔平はメジャーに行った。これからは彼を誉めるか? いや……それはないでしょう。本人にも言ってあるんですよ。「これからも、たぶんカチンとくることしか送らないけど、一応読めよ」と。翔平は「どうせそうでしょう」って笑っていました。これからはあまり彼に厳しいことを言う人がいなくなってしまうと思う。だから、もう翔平が僕のことを大っ嫌いになるくらいに言い続けてあげることが使命だと思っています。
そうですね、あえて誉めるとしたら……ワールドシリーズを大谷1人で勝った、と言われた時くらいですかね。それはすなわち我々が彼を「世界一の選手になる」と信じたことの証明になりますので。でもその時もまあ「良かったな」くらい。本当に誉めるのは、引退した時でしょう。「監督、僕どうでしたか」と聞いてきた時。それまではまだ……。
それくらいの選手なんですよ、大谷翔平という男は。
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このインタビューから7年後、大谷は栗山監督の言葉通り、ワールドシリーズ制覇を成し遂げた。今度こそ、栗山監督は大谷を“誉めた”だろうか。あるいは、「まだ一人で勝ったとは言えない」と厳しい言葉をかけただろうか。
間違いなく言えることは、この師にして今の大谷があるということである。
【前編】では、大谷の「趣味」「彼女」「クリスマスの夜」について語っている。
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