2場所連続全休、「横綱は弱くなった」と若手に言われても…「照ノ富士」が引退できない“厄介すぎる理由”
元白鵬の存在
さらに事をややこしくしているのは、今年起きた角界の大騒動の影響だ。元横綱・白鵬の宮城野親方の存在である。元幕内・北青鵬の弟弟子に対する暴行問題が発覚し、現在、宮城野部屋は閉鎖中。親方は無期限で、所属する(伊勢ケ浜)一門の総帥・伊勢ケ浜親方が率いる伊勢ケ浜部屋の部屋付きになっている。
「宮城野親方は、現役時代、史上最多の45回の幕内優勝を果たすなど実績は抜群で、モンゴル勢のリーダーでもある。タニマチを多く抱え、資力もある。一定の力を持つ宮城野が協会に歯向かわないよう、伊勢ケ浜部屋の親方はその手綱を捌く重要な役回りです(前出・相撲担当記者)
宮城野親方と照ノ富士には因縁がある。
「照ノ富士と宮城野親方は、2017年に日馬富士が貴ノ岩をカラオケのリモコンで殴り、引退に追い込まれた“鳥取事件“以来の禍根があります」(前出・夕刊紙記者)。
この事件の本質は、モンゴル勢力の内紛にある。モンゴル勢のリーダーだった白鵬に衰えが見られ、若手の貴ノ岩が「これからは俺たちの時代だ」と見下すような発言をした。その貴ノ岩と距離が近かったのが照ノ富士。この2人に対し、白鵬の“舎弟分”だった日馬富士が激怒し、“焼き”を入れたというのが基本的な構図だ。
貴ノ岩の師匠だった貴乃花親方が当時、協会に提出した意見書には、「(白鵬らとの間に)壁があります」と言った照ノ富士に白鵬が「何が壁だこらぁ、土下座しろ」と恫喝したという記載があった。膝の悪い照ノ富士はその通り土下座をして膝痛を悪化。「それが番付を序二段まで落としていった遠因とも言われています」。
伊勢ケ浜親方の後を照ノ富士が継ぐことになれば、宮城野親方は因縁ある後輩の下に付くことになる。プライドの高い宮城野親方が歓迎するわけもなく、余計な火種を生むばかりだ。
横綱候補の不在
加えて、相撲協会としても照ノ富士の早期引退は都合が悪い。即時「次の横綱」になれる候補がいないのだ。初土俵以来、わずか9場所で大関に昇進した大の里がその筆頭候補だが、「稽古量の不足でスタミナ切れが指摘されている上にあっさり土俵を割る相撲も多い。協会幹部からも、今すぐ横綱を張れるような圧倒的な力はまだないという評価です」(相撲担当記者)。実際、今場所は既に4敗(21日現在)と苦戦を強いられている。
9月の定例横綱審議委員会(委員長・山内昌之東大名誉教授)では「我々としては(照ノ富士に)長持ちしてほしいと願うしかない」(都倉俊一委員・作曲家)という声も出たほど。
満員御礼に沸く裏で多くの思惑が渦巻く横綱・照ノ富士の引退問題は、このように多方面から“物言い”が相次ぐ異例の状況に。そしてこれは現在の相撲界の抱える問題の縮図とも言えるのだ。
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