「努力とは馬鹿に与えた夢」、「学問とは貧乏人の暇つぶし」…“最後の名人”立川談志が遺した知るほどに奥深い名言
「黙って食え」
放送作家の高田文夫氏(76)は、立川流で各界著名人が入会する「Bコース」の真打として、「立川藤志楼」の高座名も持っている。
「黙って食え」
高田氏の著書『ご笑納ください 私だけが知っている金言・笑言・名言録』(新潮文庫)によると、談志はラーメン屋などで色紙を頼まれると、よくこう書いたという。時には「この店のことはよく知らない 談志」と書くことも。他にもよく色紙に書いていた言葉として、以下を紹介している。
「銭湯は裏切らない」
「人生成り行き」
「親切だけが人を納得させる」
最後の「親切」について。前出のキウイは、著書でこう紹介している。
〈その昔に寄席で子供が退屈して泣き出した時、今なら最初から入れてくれなかったり、周りのお客さんがにらみつけたりするかもしれませんけど、師匠は高座からゆっくり間を置いて、
「子供は泣くもんだ。気にするな」
そっとそう言って周りにも何よりお母さんに気遣い、対応をうながしたことがあります。こうした寛容さはすごく持ってました。そしてお母さんと出ていく子供に向かって(男の子でしたけどね)、こう言いました。
「気を付けて帰るんだよ」
師匠は以前、こんなことを言っていたんです。
「言う奴には見込みがあるから言ってる。なければ言わない。ただしダメだから言ってることもある。そこを見分けられるのも才能だ」
常にそうだとは限らないでしょうが、何かを言うにしても師匠は色々と気を付けていたと思います。実は神経を遣っていましたね〉(立川キウイ 著・前掲書より)
その一方で、こんなことも。談志が銀座の行きつけのバーで、盟友の石原慎太郎氏と酒を飲んでいた時のこと。談志が石原氏に聞いた。
「世の中に言いたいこと、どんくらい言えてる?」
「半分も言えてない」
〈そして石原さんが逆に聞き返しました。
「談志は好きなこと言えてるだろう?」
「そうでもないよ。立川談志を求められるしな」
そうしたら石原さんがニヤッと意味ありげに笑いました。その会話は今でも印象に残っています〉(同)
「アメリカ人は信用できない」
ある時、談志がおでん屋に入った。ふと店の壁を見ると、これまた盟友の五代目・三遊亭圓楽の色紙が。店主に色紙を持ってこさせた談志は、こう書いたという。
「この店の田楽は圓楽よりうまい」(高田氏 著・前掲書より)
〈男子の名言・笑言はたくさんある。
「努力とはバカに与えた夢である」
「酒や煙草を止める奴は、意志が弱い」
「小言は己の不快感の解消だ」
「馬鹿とは、状況判断のできない奴」
「上品とは、欲望に対する動作のスローモーな奴のことを言う」
「学問とは、貧乏人の暇つぶし」
「アメリカ人は信用できない」
最後のフレーズなぞ、まるでトランプ大統領の誕生を予知していたかのような一言である。談志が生きていたら、トランプをどう言うか聞いてみたかった。トランプもそうだが、あの人を選んでしまったアメリカ人のレベルの低さを憂えたと思う〉(同)
コロナ禍にウクライナ情勢、毎年夏の異常な暑さ、闇バイトに走る若者たち――談志がいたら、どんな切り口・視点でこれらを語るだろうか――。
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第2回「立川談志が前座の弟子に“名刺を作らせなかった”納得の理由 その代わり『名刺を頂いたら後で…』」では芸人として名前を覚えてもらうために「名刺はもつな」そして「基礎はキチンとやれ」――談志が説いた究極の芸論を紹介している。
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