インドが「中国重視」に方向転換せざるを得ない事情 「タージマハル」がスモッグで消える…深刻な公害や食品価格の高騰で高まる国民の不満
消費不振がインド経済全体に打撃
消費の不振は企業収益にも暗い影を投げかけている。
インドの主要企業の第3四半期決算は4年半ぶりの低水準に陥った。専門家は、消費動向を始め広範な分野で景気減速が見られると警戒している(11月11日付ロイター)。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった株式市場でも異変が生じている。海外勢の10月の売越額は過去最大となった。米ゴールドマン・サックスは企業収益の悪化を理由に、インド株の投資判断を“オーバーウエート”から“ニュートラル(中立)”に引き下げている。
このように、食品価格の高騰はインド経済全体に打撃を与えつつある。
インド中央銀行は今年の実質経済成長率を前年比7.2%と予測しているが、民間では成長率予想を下方修正する動きが強まっている。
成長の鈍化はモディ首相にとって頭の痛い問題だ。今年の選挙で苦戦したのは中間層の不満が主な要因だった。成長が鈍化すれば、国内の雇用難はますます深刻化し、政権への批判が高まるばかりだろう。
西側諸国から中国へと軸足を移行
注目すべきは、海外投資家の間で「インドが西側諸国から中国へと軸足を移行している兆しがある」との指摘が出ていることだ(10月31日付日本経済新聞)。
モディ氏は10月23日、訪問先のロシア西部カザンで5年ぶりに中国の習近平国家主席と会談し、対立の原因となっていた国境紛争地の安全管理について協議を加速することで合意した。25日には、領有権を巡り対立するインド北部ラダック地方の一部から印中両軍が撤収を開始し、30日にその完了が報じられている。
今回の緊張緩和はインドが主導したと言われている。
2020年5月の国境紛争後、インド政府は中国企業を締め出してきた。だが、9月からは態度を一変させ、中国企業に対して投資の呼びかけを活発化させている。
中国に代わって「世界の工場」を目指すインドが、深刻なアキレス腱を抱えているからだ。国内企業の競争力が低いため、中国企業の助けを借りないとインド国内のサプライチェーンが整備されない。
インドには日米豪印の協力枠組み「クアッド(QUAD)」に対する失望もあるようだ。専門家は、「中国封じ込め」という当初の目的が希薄化し、具体的な成果が出ていないと批判的だ(10月5日付日本経済新聞)。
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