「斎藤元彦氏」再選のウラ側を徹底検証 「ネットが正義、テレビが悪です」が人々を動かした背景とは

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なぜ斎藤氏は告発文に過剰反応したのか

 さらに大騒動の源流を辿ると、改めて斎藤氏の動きに疑念が深まる。

 発端の告発文なるものは、実は珍しいものではない。どこの自治体でも権力闘争を内部に抱え、時折、現体制を揺るがそうと出ては消えていくものだ。これを手にした首長はたいていは肚に収め、場合によって反省材料にする。あげつらわず無視するのが普通だ。

 なぜ斎藤氏は告発文を無視せず、過剰に反応したのか。県政記者の1人は、「足元の権力基盤が弱いことを自覚していたからではないか」と推し量った。

 5期20年にわたった前の井戸敏三県政で主要ポストを握ったのは、主に財政畑を歩んだ幹部たち。逆にそこまでの道筋を描けなかった人事畑の片山氏らのグループは21年の選挙で斎藤氏に出馬を働きかけ、当選後はその側近ポストに引き上げられたとされる。

 問題はそこに生じた派閥争いだ。

 別の県関係者は「本来なら自分の部下でしかなかった片山氏に使われることに、財政系の幹部たちの間にはマグマが溜まっていた」と補って続ける。

「その抵抗を抑えるのには知事の権力しかありません。当選当時43歳の斎藤氏にかかると荒っぽい指示になって不満は膨らむ。“板子一枚下は地獄”という状況を肌に感じている状況で飛び出した告発に、斎藤氏や片山氏は焦ったのではないか」

 大騒動を経て権力基盤を盤石にした斎藤氏は「結果オーライ」と受け止めているかもしれないが、選んだ県民にとって長い目で見てどうなのか。

 もはや知事への健全な建言や進言はなりをひそめるに違いなく、その余波は全国の自治体に及ぶ可能性もある。大きな成功体験を得た立花氏は、「真実」の旗印のもとでより強力に、各地で活動を展開するだろう。法令違反ギリギリの覚悟で人々の喝采を調達しようとする者に、メディアはどう向き合ったらよいのか。

 マスコミが政治権力をチェックする役割の果たし方には、大幅な見直しが必要になるだろう。対症療法だとしても、まずは選挙期間中の「沈黙」を止め、徹底したファクトチェックから愚直に始める必要があるのではないか。

広野真嗣 ひろの・しんじ
1975年、東京都生まれ。慶応義塾大法学部卒。神戸新聞記者を経て、猪瀬直樹事務所のスタッフとなり、2015年10月よりフリーに。17年に『消された信仰』(小学館)で第24回小学館ノンフィクション大賞受賞。

デイリー新潮編集部

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