「発達障害の役をアイドルが小手先の多弁で演じることにへきえき…」 ドラマ「ライオンの隠れ家」坂東龍汰は一味違う

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 主人公の小森洸人(ひろと)は市役所勤務。毎日同じ時間に同じメニューの朝食を取って出勤。定時に退所し、週3回は近所の元定食屋で夕食。買い物は決まった曜日に必ず同じルートで向かう。決まりきった凪(なぎ)の日常に時折不安はあるが、ルーティンは崩さない。と書くと、神経質な男を想像するだろう。

 これには理由がある。彼には自閉スペクトラム症の弟・美路人(みちと)がいる。弟はルーティンを崩すと激しいパニック症状を起こすので、時間も行動パターンも規則的でなければいけない。両親は他界、兄は弟最優先で、この生活を維持してきた。

 ところが、ライオンと名乗る5歳男児が小森家へ闖入(ちんにゅう)。本名を言わず、どうやら複雑な事情を抱えているようだ。彼の体には虐待と思しき痛ましい痕跡もある。

 この子が、音信不通になった異母姉の子と気付く洸人。その姉は行方不明。母子ともに警察が捜索中と報じられている。不穏な背景を察した兄弟は、小さな体で悲劇を背負ったライオンが安心して暮らせるよう尽力。「ライオンの隠れ家」の話だ。ハートフルな家族モノだが、冒頭からガチでサスペンス。

 自閉スペクトラム症の人がどんな生活を送り、家族がどう支えているかを丁寧に、でも奇麗事で終わらせずに描く。兄の責任感と使命感、過去に弟を疎んじた罪悪感も入れる、志の高さ。

 一方、児童虐待やDVの懸念、闇の仕置人の存在、大企業の不正疑惑など、きな臭さと謎に満ちていて、動きの怪しい容疑者も多数。ほっこりしてる暇なんかないのよ、金曜夜は!

 展開が興味深いのはもちろん、役者陣の表情がとにかく豊かで繊細。洸人を演じるのは柳楽優弥。根の優しい洸人の心情の変化を微細な表情で魅せる。アドレナリン全開の役も多かったが、今回はオキシトシン優位にスイッチ。穏やかに確実に、不器用な洸人を体現。優しさを口元ににじませることができるのかと感心した。

 で、美路人を熱演するのが坂東龍汰。おそらく当事者の特性をじっくり観察したのだろう。真摯に表現する技巧に驚いた。発達障害の役をアイドルが小手先の多弁で演じることが多くてへきえきしていたが、坂東は表情と動きで「思考の流れ」や「感情の発露」を見事に伝えるんだよ。色彩感覚が鋭敏ということで、パントーンの色見本帳も駆使。天才肌を完璧に体現しているのだ。

 さらにライオン役の子役、佐藤大空(たすく)も演じ分けが秀逸。第1話のあきれるほどの悪童っぷりと、第3話のいたいけな母恋しさで、表情が別人級。すごいな。そんな三人がメインだもの、面白くならないはずがないわけよ。

 最近は丁寧な心情描写よりも、時短&劇的な叙事詩がドラマに求められるようだが、役者にこれくらい託す作品の方が信用できる。

 さらに、失踪中の姉・愛生(あおい)役は尾野真千子。ワケアリな女の半生を魅せてくれるに違いない。他に、真相究明をけん引する週刊誌記者(桜井ユキ)、彼女に脅されて情報漏洩する、有能なはずの刑事(柿澤勇人)、謎の人物・X(岡山天音)など仕掛け人も盤石の手練れ。今期ベスト3の一つである。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年11月21日号掲載

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