既婚者なのを隠して「28歳の女性」と不倫、別れは手紙で一方的に…「言う必要ないかと」45歳夫の罪

  • ブックマーク

2ヶ月も自宅に戻らず

 お預けから「よし」となったのは、紗綾さんが彼の手を握り、体を預けてきたからだ。がっしりした彼の体が小柄な彼女を包み込んだ。

「ゴム鞠みたいな体でした。はじき返したり包み込んだりされながら、宇宙に放り出されるような解放感があった。今まで感じたことのない感覚と、この人に刻印を残したいという少し横暴な気持ちがありましたね。あんな気持ち初めてだったから、よく覚えているんです」

 彼女は「私以外としないで」とつぶやいた。「紗綾ちゃんは僕のもの?」と尋ねると彼女は思いきりうなずいて足を彼の背にからめてきた。非常にベタだが、原始的で率直な欲求をふたりはぶつけあったのだろう。「私はあなたのもの」「きみは僕のもの」という言い方は、今の時代でこそ違和感があるが、実はそこに男と女の原点があるのではないか。

「それからは僕が彼女のアパートに通ったり、彼女の家の近くで食事をしたりという日が続きました。1週間、毎日会ったこともあります。さすがに体がガタガタになって熱を出しながら仕事をしましたが。彼女のためならどんな手間も惜しみたくない、彼女に寂しい思いはさせたくないと思っていた」

 彼女は過去をあまり語りたがらなかった。それをいいことに彼も自分のことを詳細には話さなかった。今を燃え尽くしたい。そんな思いが強かったと彼は言う。

「万が一のことを考えて、僕は職場やアパート近くに彼女を来させなかったけど、土日を利用して一泊旅行をよくしましたね。気づいたら2ヶ月も自宅に戻ってなくて、息子から『パパに会いたい』とテレビ電話をもらったとき、ドキッとしました」

どうせろくな人生じゃない

 それでも紗綾さんへの強い感情は衰えなかった。彼女がときおり見せる寂しげな表情や、「私はひとりでも生きていける」と突然言ったときの強い表情が醸し出す正反対の脆さなどが彼をとらえて離さなかった。

「あるとき、紗綾に親が病気だからと嘘をついて自宅に戻りました。由佳里は何も疑わず、『あなた、忙しいんでしょう。少し痩せたんじゃない?』と心配してくる。オレのことなんか気にしないでくれと一瞬、怒りがわいて、そんな自分を嫌悪して……。そういえば自己嫌悪に陥ったのも初めてかもしれない。自分のことなど考える習慣も余裕もなかったんですよ。どうせろくな人生じゃないというのが心の隅にあったんでしょうね」

 それでも家族に会えば心は和んだ。特に息子と遊んでいると何もかも忘れることができた。紗綾さんのことを考えたくなくて、息子に神経を集中させていたのかもしれない。

単身赴任を終え…

 とうとう、彼が単身赴任を終えるときがきた。工期が延長になればいいと願っていたが、そうはならなかった。彼は紗綾さんの自宅のポストに別れの手紙を入れて町を去った。紗綾さんへの気持ちが冷めたわけではなかったが、初期の熱さは消えかけていた。ちょうど潮時なのだろうと彼は思った。

「それから1年たった一昨年、会社に弁護士事務所から手紙が来たんです。開けてみると紗綾の代理人と名乗る人物が、紗綾が僕を訴えると言ってると。まさか本当に訴えることはないだろうと思っていたら、本当になってしまった。しかたがないから僕も弁護士を頼みました。納得ずくで関係をもったのに、どうして訴えられなければならないのかとも思いました。僕は結婚しようとも言ってないし」

 とはいえ、結婚していることを言わなかったのは事実。紗綾さんは必死で彼のことを調べ、それでも正体がわからなかったので探偵事務所まで使って彼の居所を探し当てたようだ。

いろいろなことがわかってくるにつれ、彼は自分が彼女を傷つけたのだとようやく悟った。同時に、それが妻への裏切りになっていたことにも。

「妻には全部、話しました。妻は『ちょうど今日、私にも手紙が来たところ』と紗綾さんからの手紙を見せてくれた。紗綾は僕の寝顔とか、いろいろな写真を撮っていたようでそれらも同封されていました。妻が涙を流すのを初めて見て、戸惑ってしまって、その日、初めて子どものころからの話を詳細に伝えたんです。でも妻は、『今さら同情を買おうと思わないで』と手厳しかった。信頼関係が崩れたことだけはよくわかった」

次ページ:最後はドロ沼に

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。