離婚理由は「妻が愛犬に嫉妬して」 “クン”に救われた元・不良夫の孤独な人生
「僕の人生がスタートした」
そのころ会社から正社員になることを打診され、彼はもちろん喜んで飛びついた。技術だけではなく勉強もしなければとお寺の隅を借りて本を読んだ。そんなときもクンはずっとそばに寄り添ってくれた。
「頭が悪いのか、なかなか論理がわからない。そのたびに会社で先輩たちに聞きまくりました。勉強のしかたがわからなかった」
当時は大検(大学入学資格検定)と呼ばれた、今の高卒認定試験に合格するため、20代は勉強漬けだったという。23歳でようやく合格、さらに勉強を続けて26歳のときに建築関係の国家資格をとった。
「まだ2級でしたが、そこからですね、僕の人生がスタートしたのは。それまではなかったことにしたいくらいです」
経験を積んで1級を目指したい、他にも資格をとりたいとさらに意欲がわいた。
なぜか妻には懐かない
30歳という節目が見えてきたとき、会社近くの食堂で働く3歳年下の女性と結婚した。ずっと顔見知りだったのだが、あるときデートに誘い、そこからつきあいが始まった。半年ほどで結婚し、クンと妻と暮らす一軒家を借りた。
「幸せでした。妻は結婚後も食堂で働いていたけど昼間だけにしてくれて。ただ、クンはなぜか妻には懐かなかった。人懐こい子なのにとちょっと不思議だったんですが……」
ある日、出社したものの忘れ物に気づいた允紀さんが自宅に戻ってみると、妻がクンを蹴飛ばし、クンがせつない声を上げているのを目の当たりにした。彼の後頭部でカチッと音がした。スイッチが入ったのだと彼は言う。
「あとさき考えず、妻にビンタを食らわせてしまった。妻はたたらを踏んで転倒、動けなくなりました。救急車を呼んで搬送したら、肋骨骨折だった。警察を呼ばれると思ったけど、妻は呼ばなかった。自分がクンをいじめていたことが僕にバレたとわかったからでしょう」
妻は彼とクンとの仲を嫉妬したらしい。彼は毎日、クンと一緒に寝ていた。自分にとって、妻よりクンのほうが大事だったのは確かだと、妻から離婚届をつきつけられて、思わず笑ってしまったという。
「結婚なんてしなければよかったと思いました。妻もクンと仲よくしてくれていると思い込んでいたから、クンに申し訳なかった」
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