「バレエ」「オペラ」の灯が消える!? 東京で大ホールが休館ラッシュ…都のあきれた無理解
あまりにも重なる休館時期
そんなホールが約3年間閉まると、どんな影響があるのか。
まず、代替施設があるかどうかを確認したい。東京文化会館と同じように使用されているホールとしては、まず、横浜市中区の神奈川県民ホール(2,439席)が挙げられるが、老朽化で耐震性をたもてないことから、2025年3月31日をもって休館することが決まっている。しかも再開は未定である。続いては東京都渋谷区のオーチャードホール(2,150席)だが、隣接する東急本館が解体されて工事中のため、使用できるのが工事のない日曜や祝日に限定され、その後の改修もスケジュールに入っている。要するに、主要な3施設は、いずれもほぼ使えない状況になる。
ほかにも施設はあるが、新宿区立新宿文化センターは2025年9月30日まで、改修工事のために長期休館中で、東京都府中市の府中の森芸術劇場は2025年4月まで、やはり改修工事のために休館中だ。もっとも、これらは東京文化会館の休館とは重ならないが、先述した3つのホールが同時に休館してしまうと、バレエやオペラなどの舞台芸術は、事実上、公演を実施する場を失ってしまう。打撃は計り知れない。
東京都港区のサントリーホール、新宿区の東京オペラシティコンサートホール、墨田区のすみだトリフォニーホールなど、音楽専門のホールもあるが、バレエやオペラのための舞台機構がないので、本格的な上演はできない。簡易な形式にして音楽ホールで上演する方法もないではないが、じつは、サントリーホールは27年1月から数カ月、東京オペラシティも26年1月から半年ほど休館する予定で、すみだトリフォニーホールも休館の予定が組まれている。
あまりの休館ラッシュなのである。当然、ホールごとに異なる事情を抱え、致し方ない面もあるのだと思うが、各ホールの横の連携はどうなっているのか。なぜ、連絡を取り合って休館時期をずらすといった措置を講じることができないのか。不思議だというほかない。
ホールを利用する側は、どのホールもそれぞれが文化を醸成するために、補い合いながら機能していると認識している。自然とそう気づいていると思う。ところが、ホールを運営する側は、全体における自身の位置づけを理解せずに、あるいは見ようとせずに、自身の都合だけで休館を決めているように見える。
所管するホールの価値を知らない愚
なかでも代替が利かない東京文化会館が、同様のホールも休館する時期にぶつけるように、3年間も休館するというのは、やはり暴挙だと思う。ホールの現場は時間をかけて、良質の文化を提供する場をコツコツと整え、ホールと観客の良好な関係を築いてきた。3年近いコロナ禍のダメージは大きかったが、めげずにふたたび、その場を整備してきた。
種をまき、毎日水をやりながら、ていねいに育てるのが文化である。3年間も水をやらなければ、時間をかけて育てた苗は、生育できずに枯れてしまう。東京都生活文化スポーツ局は、首都東京の「文化」を支える組織であるはずなのに、いったいどういうつもりなのだろうか。都政に詳しい記者に聞いてみた。
「東京文化会館大ホールがバレエやオペラ、クラシックコンサートを上演するうえで、どれほど特別なホールなのか、生活文化スポーツ局の人たちは理解していないと思います。いまは2022年4月から25年度いっぱいまで江戸東京博物館が、大規模改修のために休館していますが、それが終わるので、次は東京文化会館だというだけです。でも、江戸博と東京文化会館では補い合える点はありません。彼らは、東京文化会館は数あるホールの一つくらいにしか認識しておらず、バレエやオペラにとって代替が利かない施設だという認識がありません。たしかに老朽化は放置できませんが、改修を急がないと壊れるというほどではありません。使う団体や観客にとっての会館の価値を知らないから、自分たちの都合だけで休館スケジュールを決められるのだと思います」
自分たちが所管する東京文化会館が、文化におよぼしている意味や価値を理解できれば、休館時期をほかのホールと重ならないようにする以外にも、工事は平日に行って土日は開館するなど、工夫の余地はあるはずである。むろん、欧米の劇場なども改修のために長期間閉めることはある。だが、その場合はたいてい仮設劇場をもうける。東京都にはそういう発想もない。
これが私企業であれば、収益が途絶えないように仮設ホールを設置するのではないだろうか。営利団体が運営していないことが、むしろマイナスに働いている。首都東京の文化を支えるセクションが、文化の破壊にこうも無頓着であるという事実に、怒りや悲しみを通り越して、深い諦念に襲われる。
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