「今、松本人志で笑えますか?」 復帰の時期を決めるのは「メディア」ではなく「視聴者」

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カギを握るのは視聴者心理

 松本とこの番組は芸能人の異性問題に厳しい。東出昌大(36)と唐田えりか(27)の不倫疑惑では松本が東出のメディア対応などについて「火消しはすごくうまいが、火が消えてない」(2020年1月26日放送)などと冷評した。

 渡部建(52)と女性たちのスキャンダルの場合、松本は「フォローするには俺があと3人いるな」(同6月14日放送)と揶揄。サジを投げた。番組はほかにも数々の異性トラブルを放送してきた。

 松本は自分の訴訟を取り下げる際、「強制性の有無を直接に示す物的証拠はないことなどを含めて確認いたしました」などとするコメントを発表したが、そこに不倫の有無は書かれていない。

 この松本のコメントを受け、女性側の1人は朝日新聞の取材に対し「記事には一切誤りがないと今も確信している」(11月9日付朝刊)と反論している。訴訟は取り下げられたものの、性加害疑惑は何も結論が出ていないままなのである。

 そうであるにもかかわらず、エンタメ系活字メディアの中には来年の早い時期の復帰を大きく報じたところもある。視聴者の存在が忘れられている。

 物品の売買は買い手がいるから成立する。物品と人は違うが、タレントのテレビ出演も視聴者の要望によって決まる。現段階の松本に再登場を望む声はどれくらいあるのか。それが全てを決める。エンタメ系メディアがいくら復帰の後押しをしようと、ほとんど意味がない。

松本は時代の変化と合うか

 時代による視聴者心理の変化も大きい。金融界と反社会勢力の癒着が明らかになり、企業がコンプライアンスに厳格になった1990年代後半、視聴者は不倫に厳しくなった。

 石田純一(70)は1996年10月、女性モデルとの不倫が報じられた。それをテレビ朝日は大目に見て、翌97年4月からニュース「スーパーJチャンネル」のキャスターに起用する。

 しかし、同8月にまたも石田と同じモデルの密会が報じられると、視聴者の非難を受け、さすがに降板させている。

 その後、コンプライアンスの強化と足並みを揃え、視聴者の不倫を見る目はどんどん厳しくなる。2000年には50代のNHK男性アナが2人の女性職員と不倫し、懲戒免職になった。2006年には民主党(当時)の細野豪志衆院議員(53)との不倫疑惑が報じられたTBS「筑紫哲也NEWS23」キャスターの女性(48)が降板させられる。不倫とペナルティを挙げ始めたら、キリがない。

 芸能人の場合、大半が会見を開いた。2016年に「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音(35)との不倫が伝えられたベッキー(40)、翌17年に医師との不倫報道があった斉藤由貴(58)たちである。

 一方で松本は会見を開かないという。代理人弁護士が15日にそう発表した。会見を開くかどうかは松本の自由。だが、仮に会見を行わずにテレビ復帰した場合、松本のことを視聴者は「他人に厳しく、自分に甘い人」と思うのではないか。テレビ局に対しては「松本や旧ジャニーズ勢など視聴率が見込める人間は特別扱いする組織」と考えるだろう。

 松本にはもっと根源的な問題もある。復帰後、視聴者が以前のように松本の芸で笑えるかどうかである。松本はそれを忘れているのではないか。

 タレント個人への視聴者心理は状況によって変わる。松本の場合、文春に性加害疑惑を報じられる前と同じはずがない。SNSを見ると一目瞭然だが、かなり批判がある。

 時代による視聴者心理の変化という問題もある。ここ約10年、視聴者がタレントや番組を観る目は厳しくなる一方だ。

 8月18日放送のTBS「アッコにおまかせ!」で和田アキ子(74)がパリ五輪金メダリスト、北口榛花選手(26)がカステラを食べる様子を「トドみたい」と発言したところ、猛批判された。10年前なら問題視されなかったはずだ。

 トークは松本のほうがずっと辛口。30年以上もウケてきたものの、それを不快に思う人も増えているのは確かだ。

 東京大学の伊東乾教授は「いじめ芸」と酷評する。松本の芸には弱者や少数派を見下すようなところがあるからだ。攻撃性も強い。その芸がトラブルを経た今も通用するのだろうか。

「あなたは今、松本の芸で笑えますか?」。それが問われている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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