「3割が60歳以上」「子どもには勧めない」 消化器外科医が激減! がん患者が行き場を失う未来も

ドクター新潮 ライフ

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アルバイトの時間も確保できず

 大学病院は市中病院に比べて基本給が低い上、消化器外科医は常勤で過重な長時間労働を強いられるため、他の科の医師のように割のいいアルバイトをする時間を確保しにくい。そこに医師偏在も相まって、“三重苦”にあえいでいるのが大学病院の消化器外科医なのだ。

「試みに各学会の事務局に問い合わせたところ、00年以降、内科、循環器、呼吸器、脳神経外科、泌尿器科など、いずれも会員数を増やしていました。特に麻酔科は81%で内科は48%、形成外科も45%と、急増といっていい数字です。一時期、医師が減って赤ちゃんが産めなくなると騒がれた産科婦人科も8%増。その中で消化器外科だけが、数を減らしている。実に11%の減少でした」(藤井教授)

 きたる高齢化に対応すべく、日本では08年度から医学部定員を増やした。その結果、医師の数は当時の約29万人から現在、約34万人まで増えている。それなのに消化器外科医は減少の一途だというのだ。

「救急医療」破綻の恐れ

 こうした事態でダメージを被るのは、がん医療にとどまらない。

「消化器外科学会の65歳以下の会員数は、10年後には26%も減少するとの試算があります。となれば、救急医療も破綻する恐れが生じてきます」

 そう指摘するのは、北里大学医学部上部消化管外科の比企直樹教授である。

 救急医療は症状の重さに応じて1~3次救急に分かれる。1次救急は自力で来院できるレベルの軽症患者、2次は入院を要するレベルの重症患者、そして3次は特に重篤な患者に対応する。

「私たち消化器外科医は2次救急にも携わっています。潰瘍で胃に穴が開いてしまう胃穿孔、胆嚢に炎症が生じる胆嚢炎のほか、脱腸や痔などの手術を行っています」(同)

 緊急を要しながらも、消化器外科医にとって見慣れたこれらの症例で執刀するのは、一般に大学病院ではなく市中病院の勤務医である。というのも大学病院には、より高度な手技(しゅぎ)や医療機器を要する症例、そして珍しい症例を扱うことが期待されているからだ。限られた人的・物的資源を有効活用するための役割分担というわけである。

地方の救急医療が苦境に

 それでも現実には、

「医師不足に陥っている地方の市中病院では、アルバイトで来てくれる大学病院の医師らがいなければ、2次救急が成り立ちません。ところが消化器外科の場合、多くの医師は『働き方改革』によって大学病院での勤務だけで労働時間の制限に引っかかってしまう。これまで土日の休みを削るなどして週に2回以上できたアルバイトが、週に1回しかできなくなるのです」(比企教授)

 このままでは急病人が行き場を失いかねない。厚労省は将来の人口減を見据え、27年度以降に医学部定員を減らす方針を示している。が、偏在を解消しないまま医師数を減らせば、地方の救急医療が苦境に陥るのは明らかである。

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